『北朝鮮の国家戦略とパワーエリート』

北朝鮮人権問題啓発週間行事

玄成日氏を囲む出版記念会

  例年 12 月 10 日から 1 週間は「北朝鮮人権侵害啓 発週間」が設定され、政府行事は勿論、日本の各地 でNGOが様々な行事を企 画、開催された。

  北朝鮮難民救援基金は、 『北朝鮮の国家戦略とパワ ーエリ-と』の著者を招いて 日本語版の刊行を記念して 出版記念会をおこなった。著 者の玄成日を招くことに至 ったのには、背景がある。日本の北朝鮮専門家、学者、ジ ャーナリストが TV に出演し、 しばしば的外れな論評をするのを不快な思いを抱い ていたからだ。2012 年金正日総書記の死去とその後 の展開に専門家諸氏の多くは「集団指導体制」に移行 すると主張していた。御存じの通り叔父にあたる張 成沢の処刑という形で「白頭山の血統」を守ったの である。北朝鮮の国家権力の移行について理解でき ない専門家たちの主張が垂れ流されているのに不満 が募って行った。

  そのような折、韓国の国家安保戦略研究所の主席 研究委員の玄成日(ヒョン・ソンイル)氏の労作『北 朝鮮の国家戦略とパワーエリ-と』に行きあたった。 幸い著者の許諾を得ることができ、翻訳に入ったが、 何せ 473 頁(原著は韓国語)もあり、国家幹部の固 有名詞、独特の表現もあり思いもかけずに解読に時 間がかかることもあった。

  著作の翻訳グループを編成し、翻訳頂いた。校正 もまた校正グループがあり文体や用語の統一などに かなりの時間を費やし、原著に出来る限り忠実に翻 訳、刊行の運びとなった。

  北朝鮮人権侵害啓発週間のシンポジウムのパネラ ーとして出席した機会に著者を囲む日本語版の出版 記念会を行う計画を立てた。この話がまとまった時 は既に日本では、忘年会のシーズンを迎え、場所の 確保も難しかったが、何とか関係者が収まる場所を 文京区本郷の東京大学近くに探し、ようやく実現に こぎつけた。北朝鮮難民救援基金の会員、翻訳・校 正グループ、他のNGO関係者、北朝鮮問題専門家、 学者、ジャーナリストなどおよそ 30 名が集まり日本 語版の出版を祝った。

  著者が北朝鮮の核心階層の出身で、本人の出生、 学歴、経歴そのものが北朝鮮の幹部養成、選抜、登 用と管理を示していることに参加者の関心が集中していた。

  著者の挨拶や出版社の社長からの祝辞の後は、自 由な質疑討論となった。もっとも印象深い質問は「北 朝鮮の人権」についてであった。あれほど厳しい人 権侵害が横行しているのに、どうして国民は、党幹 部たちは少しでもましな方に改善しようとしないの か、という質問だった。

  玄氏は、「北朝鮮の指導部の人権意識は国家が国 民に食・衣・住を保証することが基本的人権である と認識しているところにある。十分でないかもしれ ないが国民に食・衣・住を保証している。人権を尊 重している」という考えになっていると説明した。

  他国が北朝鮮の人権に批判を加えるのは、北を何 とか崩壊させるための口実と理解している。考え方 が根本的に異なる。

  「韓国や日本の基本的人権は、将来の学校、職業 選択について考え、悩む自由があるが、北ではその ように考えることは基本的人権とは考えない」「私も 皆さんと同じように考えられるようになるまで 10 年かかりました」と意識を変えることのむずかしさ を語った。

  外国人拉致を初め、基本的人権、考える自由、選 択する自由、移動する自由を北朝鮮人が基本的人権 と理解することが必要だと語った。そのためには人 の往来を制限するのではなく、積極的に交流するこ と、できるだけ外部の情報に接する道を開いておく のがよいというのが印象的だった。

  著者は物静かに語り会場を去った。すがすがしい 印象深い会であった。

 

 

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