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【Newa116】諦めなければ、夢は道を作る 10年目の挑戦 ―宅建士試験に合格 松原京子

ついこの間、北朝鮮を脱出して日本に来たような気がするが、もう10年になった。歳月が経つのは早いということは、40代以上なら誰もが感じることだろう。

日本に来る前は自由に対する渇望と夢があまりにも大きかったため、中国で隠れ住み、タイ国でのいつまで続くかわからない待機の間、遠いトンネルの先に見える日本入国が終着点であり、また新たな始まりだと思っていた。そして、その新しい始まりのすべての過程はきっと歓喜に満ち、いつも嬉しく感謝し、どんな困難にも十分耐えられると確信していた。

 

しかし思いのほか日本に入国後の定着過程は容易ではなく、ほぼ5年間は夫にも、私にも、日本社会での私たちの居場所、私たちにできること、行くべき道を探す彷徨と努力の時間だったと思う。居場所を見つけるには私たちには知らないことだらけだった。

 

 

一文無しの私たちに待っていたもの 今日より明日はもっとよくなる希望

一文無しの私たちが持っていたものといえば、いい暮らしをしてみたいという夢、今日より明日はもっとよくなるという希望だった。この夢と希望は私と夫の内面を変え、憂鬱、挫折、失望、不安、心配、恐怖というすべての暗い感情から私たちを守り、平和と感謝を感じる力を与え、また情熱と勇気を与えてくれた。

今、私と夫は一緒に会社を経営している。まるで天職を得たように夫は現場のすべての細かい仕事と管理まで上手にこなすようになり、私は昨年12月、宅建士試験に挑戦して合格し、会社も不動産免許を取って不動産業を新しく始めた。宅建士試験への挑戦とその勉強過程で私は自分の居場所ができたように感じ、より自己肯定感を持つことができた。

日本語の実力が不十分で難しかったが、なぜかこの勉強はとても面白かった。2019年の試験に挑戦して不合格になった時も、その面白さのおかげで諦めることは考えもせず、翌年再挑戦したら合格という結果になった。

人が生きていく中で夢を持つこと、自分の夢を話すこと、諦めずに叶えていくということは結果にかかわらず、そのすべての過程がとても大切なことだと思う。たとえ、環境が簡単には変わらず、時にはもっと大変になることもあるが、夢さえ諦めなければ、道は作られ開かれるようだ。

 

夢は不毛の地で道を作り出す

 時間が経つにつれて自分のすべきことが明確になり、目標もまた具体化していくことを実感する。たまに人生を振り返り、「私の人生で一番大切な瞬間は?」と自問したりもするが、自分の夢を諦めずに生きていく人には、必ず道が作られるものだと言いたい。

私たちは今、コロナ時代を生きている。同じ状況でも、ある人にとっては、この状況がパラダイムを果敢に変えて、新しい領域を作っていくチャンスとなり、ある人にとっては暗鬱なだけだろう。そうであるから一層、私は夢を持ち、夢を描き、夢を信じようと言いたい。夢は不毛の地で道を作り出す勇気、情熱、知恵、果実を与えてくれるからだ。だから私は今日も夢を語り、記憶し、そして働く。自分自身はもちろん、自分の家庭、周りの人々までみんなが幸せになれる人生のために、夢が開いてくれた道を歩いて行こうと思う。

 

編集部注:

宅建士とは、正しくは「宅地建物取引士」という名称で「宅地建物業者」で働く場合に必須とされる資格。土地、建物の分譲、中古不動産の売買の仲介、賃貸物件の仲介などをおこなう。宅地建物取引業法に基づき定められている公的な資格。国家試験で大変な難関で、法律、税制、免許、統計資料など幅広い出題がされる。

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