韓国の統一部は四半期ごとに入国脱北者数を公表している。24年第二4半期(6月30日現在)の数は男性10人、女性95人の合計105人であった。昨年同期は男性23人、女性76人の合計99人だったので6人増加した。
◇韓国入国脱北者数の推移
2018年頃から中朝国境の警備が双方で格段に強化され、脱北自体が難しくなった。脱北できたとしても、中国朝鮮族の助けも受けづらい。かえって、中国当局は、脱北者を通告すれば報奨金を与えるなどしてきた。脱北ブローカーも減少し、「道案内料」は従来一人当たり日本円換算約20万円から大幅に高くなった。普通の脱北者では払えない額である。そこで、韓国定着後に支払う契約で韓国に入国した者が多い。先に韓国に定着した家族がいれば家族が代わって払っている。こうして18年には1137名が韓国に入国した。
19年、北朝鮮漁民2人が漁船で韓国に脱北して亡命意思を明らかにしたが、文在寅政権は「16名の同僚を殺して逃げた凶悪犯」との北朝鮮側発表を受け、脱北者ではなく犯罪者として板門店から強制送還する事件が発生した。中国では11月頃から重慶市のコロナ感染が全国に拡大し、人の動きが当局の統制を受けることになったが、韓国には1047名が入国した。
20年、コロナ感染が世界的に猛威を振るい、中国では顔認識監視TVシステム構築で移動制限が一層厳格化した。既に中国を出ていた脱北者間でも、「脱北者強制送還事件」が知られ、韓国に行っても強制送還されるとして韓国行きをためらう脱北者が増えたという。結局229名と対前年80%減となった。
21年はコロナもあり、韓国入国脱北者数はわずか63名、22年は67名であった。
23年は196名(男性32、女性164)と増加したが、この中には10人前後のエリートが含まれているという。中国では人の移動制限が大幅に緩和され、地方に売り飛ばされていた脱北女性たちや滞留者が韓国を目指している。ブローカーの道案内料は一人当たり220万円以上にもなっている。北朝鮮の一般住民が陸路で韓国を目指すことはほぼ不可能な状況であり、23年は1人だけだったという。代わりに小型木船や漁船を利用した海路脱北が試みられている。5月には漁船で黄海のNLL(北方限界線)を越えて5名の北朝鮮住民が、10月には日本海側から小型木船で4名の北朝鮮住民が韓国に入国した。
◇今後の推移?
事実上陸路での脱北は不可能になり、残された道は海路であるが、個人所有の船はなく、燃料調達や海上警備をかいくぐらねばならず容易ではない。北から漢江河口付近の浅瀬の海を徒歩で渡って亡命した住民がいた。また、軍事境界線を徒歩で越えて亡命した軍人もいる。これらは例外的であり、脱北難民増加の展望は難しい。加えて、北朝鮮は軍事境界線近くに地雷を多数埋設、コンクリート障壁まで設けて住民脱出を阻止し、国全体を「収容所」化している。一方、外交官や海外派遣エリートたちの亡命が増加している。統一部によれば、記録のある金正日時代の1997年7月~2011年12月までは54人だったが、金正恩時代になってから134人になっているそうだ。
特に外国生活を経験した人たちは北の異常さを、身をもって知り、同一民族である韓国の発展像も客観的に評価できるようになっている。金正恩は北の国民が渇望している統一を放棄した。自由のない徹底した監視体制下で「生きられない」北への帰国は耐えられないだろう。脱北した在キューバ北朝鮮大使館李日奎(リ・イルギュ=上記写真)参事は「外交官はネクタイをした乞食」と語っている。今後、脱北難民は大きく減少しても、エリート脱北者は今後も増加するだろう。