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【News126】「寄稿:ウクライナ国歌に心揺さぶられつつ 」 基金会員 田平啓剛

第二次世界大戦後の世界秩序紊乱者のロシア

 2022年2月24日、旧ソ連圏国家であったとは言え、今はれっきとした独立国家ウクライナに、国際連合の5大常任理事国のひとつであるロシア連邦が軍事侵攻を開始した。過去、ロシア連邦内のアゼルバイジャン共和国とアルメニア共和国間のナゴルノカラバフ紛争にロシア連邦軍が介入するとか、ドミニカ共和国の内戦に米軍が介入するとか、それぞれが明らかに自らの勢力圏内の紛争と自他ともに認める武力介入の歴史はあった。しかしながら、これ程までにあからさまな武力侵攻は、第二次世界大戦の嚆矢となったナチスドイツ軍のポーランド侵攻にも匹敵する世界史上の大事件である。第二次世界大戦後の国際の安全と平和に責任を持つように設計された国連安全保障理事会も、拒否権を有する5大常任理事国その者が当事者である場合、全くの無力となる。

 

10倍、20倍の国力差を跳ね返すのは短期決戦のみ

 領土、人口、資源、GDP(国内総生産)、軍事力等々の諸指標からして、ロシアはウクライナの10倍、20倍の総合的国力を有する。その差は天文学的格差とも言え、日露戦争時の日本、日米戦争(太平洋戦争)時の日本を想起させる。しかし、ウクライナ軍は驚異的な奮戦によって、雪崩を打って侵入してきたロシア軍を首都キーウ前面で受け止め、押し返し、北部戦線では遂にウクライナ領土から駆逐した。圧倒的力の差からウクライナ軍の潰走を確信し早々に亡命を勧告する西側政府の申出を毅然として跳ね返し、ゼレンスキー大統領は側近達と共にキーウにあるという動画を配信した。かくして、「大統領は既に亡命し、キーウにはいない。」とするロシア側の偽情報や謀略を打ち砕いた。

 このようなウクライナ側の善戦に、NATO(北大西洋条約機構)諸国は漸く結束して支援に乗り出し、23年11月現在、東部戦線では厖大な人的損害を歯牙にもかけないロシア軍の猛攻に耐え、南部戦線ではドニプロ河東岸に縦深30キロ程の橋頭堡を数ヶ所築くに至っている。

 しかしながら、継戦2年近く、NATO諸国の幾つか、更にその主軸たる米国に於いてさえウクライナへの支援疲れが垣間見える。他方、最近、100万発とも言われる北朝鮮からの武器弾薬等の大量支援を受けたとは言え、殆どの軍需品を自国調達でき、且つその量産体制に入ったロシアがじわじわとその地力を発揮しようとしている。

 

ウ軍6月攻勢は頓挫したのか?

 ウ軍のザルジニー総司令官は、過日、中央部ザポリージャ方面に於いて、人的消耗をものともしないロ軍の戦略思想の前に、戦線の膠着を認めざるを得なかった。

 抑々、冬の間中、空前絶後とも形容される高密度に敷き詰められたロ側の地雷原。「竜の歯」と称された長大な対戦車障害物群。更に幾重にも張り巡らされた対戦車壕。これらが相互に有機的に連結された三重の防衛線。 ・・私は第二次世界大戦緒戦のフランスのマジノ要塞線を想起した。ドイツ軍機甲師団は難攻不落とされたこれを迂回し、戦車隊が進入不可とされたアルデンヌの森を突破し、背後に廻ってマジノ線を無力化、電撃戦を成功させた。これと同じように、ウ軍はザポリージャ正面を陽動とし、南部へルソン州でロ軍によって故意に爆破、決壊させられたカホウカダムの下流域を、知恵を働かせて早急な洪水対策を講じ、寧ろ機甲軍の主戦場とする電撃戦を創出、展開するべきであった、と私は秘かに信じている。ウ軍の継戦能力は限られているからである。しかし、まだ決着はついていない。そして、国土防衛のウクライナ兵の士気は、ロシア侵略軍兵士の10倍も20倍も高い。

 

いずれ和平は訪れるが、ウクライナに尊厳ある領土的保全と最大限の自由を!

 いずれ或る程度の軍事的決着がつき、双方、ギリギリの譲歩を見せたところで、仲介国が現れ、矛を収めることになるのだろう。その場合、忘れてはならないのは、最低限ウクライナの原状回復である。自由で独立した平和な主権国家を或る日、突如として襲ったのは明らかにロシアの正規軍であり、その戦争責任は明白である。更に、ブチャその他ロシアの占領地全域での酷い民間人に対する人道犯罪や戦争犯罪。甘言を弄してのウクライナの子供達のロシアへの組織的誘拐、拉致、洗脳、養子縁組その他の人道犯罪。裁かれるべきことは山のようにある。国連が実質的にその能力を奪われた状況下、国際社会(NATOとかEUとかICC)がどの位、これに成り代わって正義を実現することが出来るのか?・・絶望的にならざるを得ないが、これが今、我々が生きている世界である。

 しかしながら、憂愁を帯びつつ力強さに溢れたウクライナ国歌を聴きながら、私は敢えて心の奥深くから叫ばざるを得ない。「ウクライナに栄光あれ!」と。

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