( ー日本人の夫と脱北者の妻の会話からーJ&K)
今日は。唐突な自己紹介から始めますが、私は北朝鮮出身の女性と結婚生活を送っている者です。現在、動画配信サービスNETFLIXで大ヒット中の韓流ドラマ「愛の不時着」について二人の会話の一端をお話したいと思います。
その人気の秘密は、韓国の財閥令嬢と北朝鮮将校が、北朝鮮を舞台に繰り広げるラブコメディで、北朝鮮についての“リアル過ぎる”描写にあると言われています。
本作品のキャストや見どころ、あらすじ等は他サイトに譲るとして、「愛の不時着」の人気に便乗する形で、北朝鮮難民救援基金ならではの情報をお届けできればと思います。
脱北者である妻と暮らすようになって約10年、息を吸って吐くように韓国ドラマを見続ける彼女を不思議に思って(眺めて)いました。何がそれほど面白いのかと。
そんな彼女の勧めにより軽い気持ちで視聴を始めた本ドラマ、睡眠時間を削る勢いで夢中になり、1週間ほどで最終話までたどり着いてしまいました。
両親が共に日本人で、留学経験なし、英語も苦手、国際情勢に疎い、という生粋の(?)日本人である私から見て、「愛の不時着」は、疑問の嵐だったのです。現地出身の妻に度々質問をすることで、納得したり、改めて驚いたりと、以前より理解が深まったような気がします。
(妻の受け売りですが)ドラマ大国である韓国で大ヒットした訳ですから、ストーリーが素晴らしいのは間違いありません。しかし、舞台となっている現地のローカルな事情や慣習といった背景を知ると、更におもしろいに違いない。
「愛の不時着」を見て北朝鮮に興味を持った方にも、次の視聴作品の候補として検討している方にも、少しお役に立てるかもしれません。
それでは妻と私の一問一答をご覧ください。
以下、北朝鮮出身の女性と結婚生活を送っている者=(夫)、脱北者の妻=(妻)の会話形式にてお送りします。
※多少、ストーリーに関わる部分がございます。未視聴の方はご注意ください。
【Q】夫:市場にかなり韓国のものが出回っている感じだったけど、実際どうなの?
【A】妻:ああいう風に売ってるよ。辛ラーメンやお酒、化粧品、韓国ドラマのDVDなどが中国経由で入ってくる。ただ、見つかったら処刑されるから、命がけで商売している感じかな。
質屋で、主人公が持っている超高級品の時計を重さで値付けするシーンは、誇張がありつつも、割とリアル。
【Q】夫:キムチを手作りしたり、肉を塩漬けにしたり…自然派志向?
【A】妻:言われてみると、北朝鮮で暮らしているときは、自然のものより、インスタント食品の方が高級だった。何から何までオーガニック(笑)まあ、他に選択肢がないんだけどね。
【Q】夫:定期的に停電が起こるから、冷蔵庫がただの棚になったり、列車が止まったりというシーンが描かれていたけど、本当にそんなことあるの?
【A】妻:北朝鮮全土で停電は日常的にある。田舎は特に酷いけど、平壌でも状況はそう変わらない。だから冷蔵庫が無意味なのはたしか。
平壌行きの列車が止まって人がものを売りに来る場面、私も乗る度に同じ目にあった。停電がなければ半日で行ける距離だけど、1週間はかかるつもりでいつも移動していた。知らない人同士で時間を潰すために、トランプを用意した思い出がある。今思えば、あれはあれで楽しかったような。
【Q】夫:軍人ってやりたい放題?人を殺しても罪に問われないように見えた。
【A】妻:割とやりたい放題だけど、さすがに殺人とかになると裁かれる。そういう意味では、ドラマっぽい部分といえるかもね。ただ、軍の幹部とかになると、また状況が違うかも。私のような一般人にはわからない世界があると思う。
【Q】夫:特別な理由がない限り空港なんて使えないという理解だが?
【A】妻:たいていの人は空港に行ったことがない。一般の人は海外に行くなんてあり得ないから、パスポートを持つという概念がそもそも存在しない。
【Q】夫:留学ってできるの?
【A】妻:平壌にいる人の中で、優秀だったり、家柄がよかったりすると、行ける人もいる。私の知り合いの兄弟が留学していると噂で聞いたことがある。ただ、平壌に住める人がそもそも限られるし、住みたいから住めるという場所でもない。
【Q】夫:主人公の部下たちが韓国に行くシーンで、一つ一つに驚いていたのが印象に残っているけど、あんなリアクションになるかな?
【A】妻:小さい頃から、韓国は貧しい生活をしているとか、子供たちは学校に行けずに物乞いをしていると教育を受けるから、それを信じ切っている人はああなるかも。
最近は韓国ドラマの影響で、実態は違うことに気づいている人が増えていると思う。これは知っている人が多いかもしれないけど、韓国ドラマを見ているのがバレたら、収容所行きだよ。
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北朝鮮という国名を聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか?
強制収容所、歴代の最高指導者、弾道ミサイルの発射実験、朝鮮中央テレビのアナウンサー…etc。どうも、メディアを通して、そういうものばかり伝わってくる気がするのです。
もちろん、悲惨な現実はあるでしょう。何を隠そう、私の妻も命がけでその国を抜け出してきた一人ですから。
韓国では「愛の不時着」は北朝鮮を美化しているという、批判的な報道があるようです。そう言いたくなる人がいてもおかしくないとも感じます。
ただ、私が改めて思うのは、北朝鮮にもそこで暮らす人々がいて、日常を営んでいるということです。
人間関係の中で生きていて、学校に行ったり、仕事や家事をしたり、市場で買い物をすることもあれば、ピクニックに出かけることもあります。
一問一答で扱ったトピックは、ひとつひとつ文化の違いを感じさせてくれる興味深いものでした。しかし、そこにいる人たちは、私たちとそう変わらない、ひとりひとり個性を持った人間たちなのだと思うのです。
ドラマのストーリーを思い返し、妻との会話を重ねる中で浮かんできたのは、当たり前すぎて忘れてしまう、大切なことだったように感じます。閉ざされた、近いのに遠い国に暮らす人々に想いを馳せる。そういう楽しみ方もできるかもしれません。
…ちょっと真面目トーンになりすぎて、背中がソワソワするので、やめようかなと思いつつ蛇足をひとつ。
妻いわく、北朝鮮では世間を渡っていくのに賄賂がかなり有効で、お金を渡せば何とかなる場面も多いとか。これが日本に当てはまるかどうかは、人によって意見が分かれるかもしれませんね。ではでは。
NETFLIX 「愛の不時着」のURL :
https://www.netflix.com/title/81159258