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【News117】映画評  アニメ映画『トゥルーノース』は日本の若者だけでなく、世界の若者の関心を集め、インパクトを与えてくれるかもしれない

 2021年6月から全国公開される映画『トゥルーノース』。北朝鮮の政治犯強制収容所をテーマにした作品だ。公開前に鑑賞する機会を得たので、映画評を記してみたい。

 

 映画は冒頭で、金正日体制下のピョンヤンで暮らす小学生の兄妹ヨハンとミヒ、そして彼らの両親の日常生活の様子を映し出す。1990年代後半から2000年代前半に繰り広げられた「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉に見舞われる直前のピョンヤンでは、穏やかな生活が繰り広げられていた。

 

 ヨハンとミヒが同級生たちと少し異なっていたのは、彼らの両親が帰還事業で日本から北朝鮮に渡っていった在日朝鮮人であったことだ。そしてその事実が、彼らの家庭を奈落の底へと引きずり落していく。ある日のこと、仕事に出掛けたヨハンとミヒの父親が忽然と姿を消す。さらに数日後の晩、残されたヨハンの家族のもとに当局の役人たちがやってくると、強制収容所に連行してしまうのだ。こうしてヨハン、ミヒ、母親にとって地獄のような日々が始まっていく。

 

 私自身が北朝鮮の人権問題に興味を持ち始めたのは、確か1997年のころだったと思う。それより前の1994年冬、旅行者として北朝鮮を訪れており、すでに北朝鮮には関心を持っていた。しかし、北から逃れてくる脱北者の存在を意識し、人権問題に目を向け始めたのは、姜哲煥と安赫が記した『北朝鮮脱出』を手にしてからだ。

 

 この本を見つけたときのことは、今でもよく覚えている。当時、ニューヨーク市に住んでいた私は、グランドセントラル駅に近いブックオフのニューヨーク店の地下で日本語の本を物色していた。その際にこの本と巡り合い、すぐにその内容に釘付けとなった。この本は、当時の私にとって衝撃という一言では言い表せないほどのインパクトを与え、それ以降、私は北朝鮮関連の書籍を読み漁っていく。

 

 本作『トゥルーノース』の物語は、これまで北朝鮮関連本を読んできた人にとって、特に目新しいものではないかもしれない。前述の『北朝鮮脱出』に加え、安明哲の『北朝鮮 絶望収容所』、さらに申東赫の『収容所に生まれた僕は愛を知らない』といった書籍で語られている部分とも重なる。正直なところ、ストーリーとしての目新しさを感じる部分はそう多くはない。

 

 では、『トゥルーノース』の存在を見過ごしてしまっていいのか。そうでないところが、実に心苦しい。この映画の公開は、強制収容所の存在が現在進行形で題材となることを示しているからだ。『北朝鮮脱出』が刊行されてから、すでに27年の歳月が過ぎ去っているが、金一族が支配する北朝鮮の人権問題は、何1つ改善していない。映画を見ることで、その事実に改めて気づかされ、私は暗澹たる気持ちになった。

 

 ただし、落ち着いて考えてみると、プラスの面も見えてくる。その1つは、本作が3Dアニメ作品であることだ。日本の多くの人たちは、かつてのように北朝鮮の人権問題に関心を寄せてくれないという現実がある。若い人たちの「本離れ」も著しく、ベストセラーとなった『北朝鮮脱出』のような書籍が現時点で刊行されても、脚光を浴びない可能性は十分ある。しかし、アニメとなれば、日本の若者だけでなく、世界の若者の関心を集め、かつての「北朝鮮本」に比類するインパクトを与えてくれるかもしれない。『トゥルーノース』は、そうした可能性を秘めている作品と言っていい。

北朝鮮で今も起きている最悪の現実を知ってもらうために、若い世代の人たちに『トゥルーノース』をぜひ見てもらいたい。他人に勧めるだけでなく、私自身も自分の子どもと一緒に見に行こうと考えている。

 

ライター/編集者 野口孝行

 

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