上写真=脱北した黄長燁元書記の一周忌にあわせ韓国・坡州(Paju)の臨津閣公園で北朝鮮批判のビラを飛ばす。
ムン・ジェイン韓国大統領は昨年12月29日、南北関係発展法改正案、いわゆる「対北ビラ禁止法」を公布した。
公布後3ヶ月が過ぎた、今年の3月末頃に実施される対北ビラ禁止法は、軍事境界線一帯で韓国政府の承認なしにビラなどを送り、対北朝鮮むけの拡声器放送を行う場合に、最大3年以下の懲役、又は3千万ウォン(約300万円)以下の罰金刑を受けることになるという。対北ビラ禁止法は、韓国の最大の野党である「国民の力」の不参加の中で国会を通過した。統一部はこの法律が「境界地域国民の生命と安全を保護するための最小限の措置」という立場を明らかにした。
しかし、2006年から2014年まで、軍事境界線が位置している京畿道知事を務めたキム・ムンスさんは対北ビラ散布が国境地域、国民の生命を脅かすという韓国政府内の一部の主張については、事実と異なり誇張されたと述べた。韓国の最大の野党院内代表は、国会で対北ビラ禁止法は、「キム・ジョンウン下命法」と表現した。その根拠として、この法律は、キム・ジョンウンの妹、金与正が脱北者を「人間のゴミ」と呼んで、開城工業団地連絡事務所の建物を爆破した直後に出てきたからだという。
筆者が北朝鮮で大学生だった20代前半に友人と一緒に布団の中で、初めてラジオで韓国語放送を聞いたとき、外の世界と北朝鮮を比較しながら一晩眠れなかったことが、数十年が経った今でも、昨日のことのように忘れられない。日本で生まれた人々は、ラジオで聴いたことが、一生忘れられないのは、理解できないと思う。しかし、生まれてから、今まで耳にした金氏の家族についての偶像化と、腐った資本主義社会では金持ちの天国で、一般人には地獄という宣伝が、事実とは全く異なっていることを知ったときの驚きと衝撃は大きかった。また、北朝鮮で大きな衝撃を受けたのは、1997年に韓国と北朝鮮の境界である軍事境界線から150Km ほど離れたところでビラを見た時だった。
ビラには、当時、朝鮮労働党秘書だった黃長燁さんの写真と亡命について書いており、金正日総書記に複数の婦人がいることや腹違いの子供たちも多いという衝撃的な内容だった。当時は数百人が餓死しているいわゆる「苦難の行軍」の時期であり、北朝鮮のメディアは、毎日のように、金正日指導者は、ちゃんと寝ずにおにぎりを食べながら人民と苦楽を共にしていると宣伝していた時だった。
上写真=脱北した黄長燁元書記の一周忌にあわせ韓国・坡州(Paju)の臨津閣公園で北朝鮮批判のビラを飛ばす。
親愛なる指導者の大好きな高価な食材を購入するために飛行機を飛ばし、豪華放蕩な生活を楽しんでいるというのを分かったときには背信感と憎悪を感じた。
現在、北朝鮮の人口は2千500万人であるが、韓国に居住している脱北者は3万3千人を超え、海外に住んでいる脱北者は約数千人程度(正確な実数は不明)という調査結果がある。ほとんどの人はラジオなどの外部媒体を介して外部を知り、脱北したそうだ。
国外のことを知り、人間らしい生活をするために命をかけて北朝鮮を脱出した筆者は、今回、韓国のムン・ジェイン政権が対北ビラだけでなく、北朝鮮にあらゆる情報流入を実質的に遮断する「対北ビラ禁止法」を国会で通過させ、公布したことについて理解することができない。
韓国のムン・ジェイン政権が対北ビラ禁止法を制定したほぼ同じ時期に、北朝鮮では「反動思想・文化排撃法」を公布し、外国放送と文化に接した人は、反社会主義分子として刑務所に収監し、情報を伝播させた人は処刑すると発表した。その頃、咸鏡北道清津市では長い間、自由アジア放送を聞いた罪で、軍所属の漁船の船長が処刑されたそうだ。
21世紀の情報通信の時代に金氏一家の体制維持のために、外国ラジオを聞いたことが重罪になり処刑され、インターネットの使用を禁止させ、国民の目と耳をふさいでいる国は、おそらく、世界で北朝鮮が唯一であると思う。
益々高まっている北朝鮮の核の脅威と日本人拉致問題を解決するためには、まず、北朝鮮人民の意識を変化させる事が大事だと思い、積極的な行動をするべきだと筆者は主張したい。