【News118】第1号議案 2020 – 21年 活動報告(案)

Ⅰ はじめに

 日本から北朝鮮に9万3千人の在日朝鮮人、日本人配偶者が凍土の共和国・北朝鮮に渡ったことが人々の記憶から消えつつある。それは関係者の老齢化と比例している。1959年12月14日から第1船が新潟から出て62年になろうとしているからだ。

 「地上の楽園」と繰り返し宣伝され、国際赤十字社をはじめ、日本赤十字社、日本の全政党が賛成し、推進したものであった。当時1歳で母親の背に負われて北朝鮮に渡った人も今では60歳を超える。日本に残った親族も同じく高齢化しており、支援する側も世代交代が進んでおり、親族としての一体感も著しく低下傾向にある。

 北朝鮮での生活がいかに過酷であったか、人権侵害状況は「深刻で、広範囲にわたり、組織的におこなわれている」、「人道に反する罪」とまで論及されているのに、「帰還事業」についての歴史的な清算はない。

 日本政府は、北朝鮮から脱出して日本に定住できる有資格者を、北朝鮮に渡った本人から数えて3代目までの関係者の日本への定住を認めている。

だが過去5年間に日本に定住を希望して、日本に上陸許可を認められた脱北者はわずか2人しかいない。中朝の国境の厳重管理、封鎖によって脱北者難民が出る余地がないのもある。北朝鮮に帰還した元在日朝鮮人と日本に残った肉親の間には横たわる時間と老齢化が立ちはだかる。疎遠になった関係を取り戻すすべが断たれようとしている。すでに日本に定住を希望する脱北難民の組織的な救援活動の時期は終了しつつある局面にある。北朝鮮難民救援基金としての活動の一旦停止、休止、解散を求める声が次第に大きくなりつつあり、次年度の活動方針に与える影響は少なくない。

 

 

COVID-19の変異株が急速に拡大 国境の全面封鎖へ

 もう一つの大きな要素は、COVID-19コロナウィルス感染症の世界的なパンデミック(大爆発)である。そして今はより強力な感染力を持つ変異株に変異し、これまでのワクチンの有効性が減じ、まん延傾向にあるゆゆしき事態である。

 

 中朝国境はコロナ感染を防ぐために全面封鎖され、民間人の往来の禁止、物資の搬入、搬出を厳しく制限されている。北朝鮮経済の40%が密貿易に頼っていると言われ、北朝鮮国内のジャンマダン(闇市場)で販売される中国製日用雑貨品が極度に品薄となっている。一般国民の生活は窮乏化の一途をたどり、「苦難の行軍」の再来と囁かれている。

 国際的な経済制裁で輸出品目、量の制限、金融制裁で獲得した外貨の送金に制限がかかっており、北朝鮮経済が大きな困難に直面している。

 

新人事、経済発展計画の失敗 自力更生、自給自足経済

 北朝鮮の内政では21年1月に開かれた労働党8回党大会で最高指導者の金正恩労働党書記が、新しいポストの党総書記に就任した。党大会は北朝鮮の窮状をさらけ出す場になった。16年から20年まで実施した「国家経済発展5ヵ年」について「途方もなく未達成」と述べ失敗に終わったことを公式的に認めた。新5ヵ年計画(21年- 25年)については「基本テーマは、依然として自力更生、自給自足」という。これでは経済は単純再生産にも届かない貧窮状態でしかない。そこで再び「苦難の行軍」のスローガンの登場であるが、「縮小再生産」に落ち込むしかないではないか。

 

 地方では散発的ではあるが餓死者が出ているとの報告も届いている。国境の完全封鎖にもかかわらず、食料を求めて越境したことが発覚し、銃殺刑に処せられたとの報告もある。

 

 これに加えて北朝鮮の出稼ぎ労働者問題は、国連決議により、2019年末までに各国に展開する事業所は閉鎖された。派遣労働者は労働ビザの滞在期限切れに直面し、行き場を失ったが、出稼ぎ労働者の最大の受け入れ先であるロシア、中国では、滞在ビザの延長、新たな雇用先との契約などを根拠に例外的な措置により滞在資格を付与している。中国もロシアも自国の経済発展のために、安価な北朝鮮労働者の労働賃金を必要としており、国際的な制裁を迂回する口実を巧みに準備している。

 

Ⅱ 主な取り組み

2020年9月-21年8月

<9月>

3日 北朝鮮人権映画祭実行委員会打ち合わせ

13日 難民救援基金NEWS115校了

 

<10月>

15日 北朝鮮人権映画祭実行委員会

 

<11月>

10日 北朝鮮人権映画祭実行委員会

12日 北朝鮮人権人道ネットワーク関係 省庁との意見交換(参議院会議室)

13日 朝鮮奨学会と意見交換

21日 脱北者関東交流会に参加

   横浜 みなとみらい

28日 基金理事会

 

<12月>

3日 定住サポート事業G会議

5-6日 第2回北朝鮮人権映画祭(大阪) コロナ感染対策でOn Line併用

<2021年1月>

15日 自主夜間中学の活動参観 

15日 HRW(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)とOn Line で

   人権理事会に対する日本政府の予算貢献度についての会議。

 

<2月>

20日 基金NEWS116 発送

22日 ミャンマー少数民族NGO PEACE日本語教室卒業証書授与に参加

 

<3月>

5日  産業遺産国民会議と意見交換

20日 脱北者KH君夜間中学卒業式

 

<4月>

15日 外務副大臣鷲尾英一郎と脱北者難民の定住、拉致被害者の救援に関する意見交換

 

<5月>

1日 梁葉津子著『冷たい豆満江を渡って』の書評、普及について著者との打ち合わせ

11日 『冷たい豆満江を渡って』の出版元のハート出版の編集者と普及についての打ち合わせ

19日 北朝鮮収容所を描いたアニメ映画「True North」試写会に参加打ち合わせ

 

<6月>

5日 警視庁サイバー犯罪課捜査班とハッキング事案について会議

15日 拉致対策本部と情報交換

16日 北朝鮮人権映画祭企画会議のZOOM会議参加

26日 脱北者支援グループ会議

 

<7月>

23日 拉致対策本部・人権団体の不定期情報交換、過去情報の整理について

 

Ⅲ 脱北者を救援する活動

 過去5年間に限ると、日本に定住を果たした脱北者は2名となっている。昨年の23回総会の時点では1名のみが定住者であった。この現状から「今後2年間日本に定住を希望する一人の脱北者もいなければ従来の活動方針から撤退し、新たな団体へと転換するか、解散を選択肢に入れなければならない」と基本方針を決定した。

 1年間の活動の中で、一人の脱北者が日本上陸を果たし、新しい人生を歩み始めたことから、さらに2年間(2022年12月まで)脱北者の救援を続ける大義名分が整った。

とはいえ、この活動の維持のためには、新しい人材の補充は欠くべからざる要素である。また活動維持のための資金が必要である事情は依然と課題である。

 COVID19コロナ感染状況下での安全圏へ誘導する活動の困難は、その終息まで続くものと思われるので、平壌出身の2家族7名の脱北希望者は動きが取れない状況にある。中朝国境の全面封鎖が解除されない限り、移動は不可能な状況にある。

(この救援依頼の案件は存続するが、2022年12月までの時点で救援作戦の環境が整わない場合は、消滅する。救援を望む側の意思が存在する場合は、実行可能なNGOへ引き継ぐ)

 

コロナ感染厳戒下の中朝国境の監視小屋横に立つマスク着用した兵士=日テレNEWS24

 

 

Ⅳ 食糧支援、医薬品の支援活動

 北朝鮮国内のアクセスポイントを失い3年が過ぎたが、失地回復はできていない。信頼できるパートナーからの支援要請が無く、今年度の活動は無かった。

 

 

Ⅴ 移住定住活動

 北朝鮮への帰還事業(「帰国事業」)が始まって今年で62年になる。日本から北朝鮮に移住した人は9万3千人あまり。逆に北朝鮮の過酷な生活や人権侵害に耐えかねて日本に戻った人はおおよそ200人ほどと言われている。これまで当基金の救援活動によって韓国、日本、アメリカ、オーストラリアなどに定住を果たした人の数はおおよそ200人を超えている。だが過去1年間に当基金が関わって救援に成功したのは日本に定住した1人だけであった。

 

 

Ⅵ 脱北者の救援、安全確保事業 

 COVID-19の世界的規模の爆発的な感染によって救援活動は大きな制限、制約、中止に追い込まれた。

 中朝国境はコロナ感染対策の為に全面封鎖が実施され、中国社会のデジタル化による国民監視統制が進み、脱北者の救援活動には大きな障害となった。結果、想定されていた以下の活動は、見るべき取組は無かった。

① 救援要請に対する即応体制

② 救援資金の確保、維持

③ 脱北ルートの調査

④ 取り組んだ救援案件に取り組んだグループの能力評価

 

Ⅶ 海外向け広報活動 英語ウェブサイト・海外からの寄付等

 今期も主にパンデミックの影響により国内外の活動が著しく制限された。中朝国境が相変わらず厳重に封鎖された状態で、引続き救援活動も停滞したため、救援関連を含め基金特有の活動として海外向けに相応しいと思われる記事が減少した。

 掲載した記事としては、基金として在日本公館7箇所に郵送した習近平国家主席宛の嘆願書(脱北者強制送還中止の要請)、日本に定着した元脱北者夫婦の活躍、加藤理事長の年頭挨拶等が挙げられる。

 

 

3Dアニメ「トゥル―ノ―ス」のこと

 今年6月に日本で公開された「トゥルーノース」は北朝鮮の強制収容所に囚われた家族を描いたユニークな3Dアニメ映画で、若い世代にもアピール力があり、言語も英語なので海外向けに是非広報したいと思った。しかし、残念なことに、海外においては米国等のわずか数箇所の映画館での上映のみ、YouTubeでは数分の予告編のみなので広報するわけにはいかず大変残念に思う。YouTube等でストリーミング配信が開始されたら即、英語ウェブサイトで大きく宣伝したい。

 

東京国際映画祭での上映後のトークセッションに登壇した「No Fence」の副代表、宋允復(写真左)と清水ハン栄治監督

 

海外からの寄付PayPalのこと

 ペイパルによる海外からの寄付に関し、昨年11月末にペイパル側から、基金のペイパル利用による寄附金募集資格についての問合せがあり、資格審査書類を提出し3ヶ月近くペイパル側とのやり取りがあったが、基金が認定特定非営利活動法人でなくなったとの理由で、今後ペイパルでの寄付金受け取りはできないとの通知が今年2月11日にあった。2003年6月に開設し、約17年間に亘り海外からの寄付金を受取り続けたペイパル口座も実質閉じることとなる。これに伴い、3月2日に、毎月定額の寄付を続けてきた海外寄付者全員に本件を伝え、これまでの支援に深謝する旨のメールを出した。

 

 

Ⅷ 北朝鮮に自由を!人権映画祭 

 コロナ感染症の蔓延から集会、イベントの開催条件に制約がかかり、「北朝鮮人権映画祭」の開催も危ぶまれたが、第2回映画祭は大阪の韓国人会館ホールで行われた。

 映画祭で上映したい作品の候補は多数に上ったが、2日間の限られた時間の中で、「北朝鮮の人権」と映像作品の上映を紹介するので作品の選択とトークに登場する人選にかなりの時間が費やされた。

 12月5日、6日が上映予定日でコロナ感染症のまっただ中という事情もあり、積極的な集客はしなかったが、熱心な参加客が両日でおおよそ120名ほどが集まった。

 作品とともに元脱北者のトークに関心が集まった。イベントは好評で第3回の北朝鮮人権映画祭の開催を望む声があり、映画祭実行委員を励ました。映画祭の模様はOn Lineによる配信も行われた画期的な試みでもあった。

 

Ⅸ 大学生・高校生向けセミナー講師派遣

 オーストリアの高校生が、卒業を前にした修学論文作成での質問があったのを機会にOn Lineでの質疑応答の申し込みがあった。この時点では習熟していなかったのでE-mailによる対応をした。

日本の中学生や高校生が社会の授業で北朝鮮の人権について学ぶ機会がある。ワンワールド・フェステバル(大阪)やグローバル・フェスタ(東京お台場)で質問する学生の出身校に派遣する機会は、今年度は皆無であった。

 主たる原因はコロナの感染でクラスターを恐れるあまりの結果である。コロナ感染症の発症以前には学校の授業に招かれる機会があったので、コロナ感染の終息を見据えて働きかけをするのは良い方法だろう。

 学校の授業でZoomによるWebinar(ウェブとセミナーを組み合わせた造語であり、数十〜数百人規模の参加者との対話型セミナー)方式の実現を提案したい。

 

2019年4月、関西学院国際高校で行なわれた訪問特別授業の光景

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