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【News120】韓国大統領選挙で分裂した脱北者の溝  ずたずたになった脱北者社会  北送僑胞脱北者連合会会長 李泰炅(イ・テギョン)

 私は父母と1960年に「共和国は地上の楽園」のキャンペーンに誘われ、山口県から北朝鮮に渡った。そして医師としての地位を得たが脱北し、韓国に定住して13年になった。現在まで、韓国に入国した脱北者数は約3万3千人を超える。私は激動の時代を生き抜いてきた一人でもある。

 韓国への定着状況は千差万別であるが、幼児や20代に入国した若者の大部分は、脱北者とは分からないほど韓国社会に適応している。30代、40代に入国した者は北朝鮮の親兄弟に仕送りするために一生懸命働いている。60代、70代の老年期に入国した者は生活保護を受けて余生を送っている。

今般の大統領選挙は、元脱北者たちのコミュニティーの社会的文化的一体感に厳しい亀裂と埋めがたい溝をもたらした。

 

左右の陣営に分かれた脱北者社会

 2017年5月9日、第19代大統領選挙が行われた。当時、脱北者で最初に韓国国会議員となった趙明哲と元北朝鮮の首相を務めた姜成山の娘婿の康明道をはじめとする脱北団体のリーダーと400人余りの脱北者が、文在寅大統領候補の支持宣言をしたのだった。これに対して「脱北者集団亡命推進委員会」は反対宣言をした。

 2022年の第20代大統領選挙でも脱北者たちが左派と右派に分かれて闘うのを見た。

 

 

 2月10日は、以北9道委員会のイム・ヨンソン代表をはじめとする12の脱北者団体と脱北民約1000人が、李在明大統領候補の支持宣言をした。

続いて2月26日、脱北女性連帯委員会に21団体が集まって、尹錫悦大統領候補支持宣言をした。

 彼らは北朝鮮の独裁体制から脱出し、自由民主主義という韓国で同じ人生の道を歩んできた人々だが、越えられない川を前にして李在明と尹錫悦、左派と右派、民主党と国民の陣営に分かれて闘うことになったのである。

 

 驚いたことに、「白頭稱頌(褒め称える)委員会」「白頭守護隊」「韓国大学生進歩連合」「偉人稱頌歓迎団」などの北朝鮮の独裁を賛美する団体が次々に創られたことだった。自由大韓民国ソウルの中心部の光化門には「私は共産党が好きだ」と書かれた旗が青空に翻った。今の文在寅は左派でなく主思派、従北勢力、北朝鮮勢力であるのは疑いもない事実なのだ。

 

元脱北者たちの声 誰が大統領でも構わない

 私は8人の脱北者の友達に電話通話できた。そのうち2人は李在明に投票し、2人は棄権し、4人は尹錫悦(右派)に投票したという。だから8人の脱北者中25%は左派に、25%は棄権、50%は右派に投票したことになる。信じられない意見を聞いた。

「私は脱北者がなぜ左派を支持するのか分かります。北朝鮮から手ぶらで脱北した彼らは、弱者の中で最も脆弱だ。歳を取って就職も難しく、蓄えもない私たちは左派・右派を選べない。だから少しでもお金をばらまいてくれるなら、李在明を支持する。」

 別の一人は「選挙は民主主義の花だって?選択の権利だって?左右誰でも大統領のすることは同じだ。私は選挙しない。」私は友達の言葉に驚いた。目の前の利益に従う彼らが痛ましく思われる。

 

 北朝鮮の選挙は100%参加、100%賛成だ。選挙に参加しないか、反対投票をすれば命を失う自殺行為だ。私は、監視と独裁の下で数十回の選挙を経験したが、複数候補者から選ぶ選挙や討論、公約などはない。ただ選挙用紙を「投票箱に入れるロボット」だった。

 北の選挙に慣れた脱北者たちにとっては「誰が当選しようが関心ない」。 韓国で私たちは「社会的弱者」であり、「脱北者」だ。「理念より利益」に従い、「私たちより自分の人生」を重視する。

 

北朝鮮に似ていく政治が怖い

 私は耐え切れず彼らの説得を試みました。

「左派は脱北者たちを『裏切り者』と冷たく扱い、弾圧する。彼らは金正恩が国際的な感覚を持つ明晰な人物だとおだてている。左派の線を越えて北に従う彼らに投票しますか。北朝鮮という独裁体制をよく知っている脱北者なら、どうか金正恩を崇める左派には投票しないで欲しい。」

私の説得は次第に激昂して声が大きくなる。すると相手は、「選挙は自由だから、あれこれ言うな」と言い、結局、それ以来、彼とは電話連絡が途絶する結果になってしまった。

 

 文在寅執権5年間に「偉人稱頌歓迎団」を誕生させ、次第に北朝鮮に似て行く政治が怖かった。口を開けば嘘で国民を誘惑する政治家、詐欺師たちが怖かった。

 文大統領の「金正恩愛執着」に反比例し、脱北者定着支援は全く知らん振りを決め込んでいる。脱北者母子の自殺と多くの脱北者越北事件は文政権への抗弁ではないかと思う。

私は人間を悪と善と二つの部類に分けたが、4ヶ月間の第20代大統領選挙を経験し、左派傾向の人々も慎重に対すべき部類と見做すようになった。

 

左派と右派を区別するリトマス試験紙

 「理念が違うと対応が難しい」ことを切実に感じた今回の大統領選挙だった。今回の大統領選挙は左右に分かれた全国民を非常に苦しめる過程だった。0.73%の危うい票差で尹錫悦候補が当選し、やっと安堵の息をつくことができた。私は悪と善、左派と右派で人を区別する「リトマス試験紙」を持てるようになった。独裁と奴隷生活を経験した脱北者は、自由と民主主義に抗えないという共通の認識を持っている。北朝鮮の自由と人権尊重を成し遂げる義務より、自分の金銭的利益で分断されるのは、韓国や日本の脱北者社会でも見られる。過大な期待感は人生を誤る。

 

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