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【News120】 報告 「北朝鮮帰国事業」裁判原告敗訴、高裁へ控訴を準備 北朝鮮政府主導の虚偽宣伝、勧誘行為は認定  加藤 博

 1959年~84年まで「地上の楽園」の宣伝に乗って北朝鮮へ移住した在日朝鮮人、日本人配偶者の数は9万3000人に上る。今となって分かるのは「帰国事業」という名の「誘引拉致」であった。徹底した監視、強制収容所、密告制度、食糧不足、飢餓、餓死を経験しながら、必死の思いで脱北し、運よく200人ほどが日本にたどり着くことに成功した。

 その中で元在日朝鮮人、日本人配偶者の「帰還者」5人が北朝鮮政府に対して一人5億円の損害賠償請求の裁判を2021年東京地方裁判所に起こした。その判決が22年3月23日東京地方裁判所103号法廷で言い渡された。

 

 判決は三部構成:勧誘行為、人権侵害、留め置き行為に対する司法判断

 「勧誘行為」とは、北朝鮮政府が「在日朝鮮人総連合会」(朝鮮総連)を使い、「北は地上の楽園」と宣伝し在日同胞に帰還をそそのかした。

 「人権侵害」及び北朝鮮への入国から脱北までの「留め置き」部分に分けて判断を下した。

 原告弁護団は、「勧誘と留め置きは一体のものである」と北朝鮮の責任を追及した。

東京地裁前で傍聴券の抽選結果を待つ人々

損害賠償請求について

 「日本に帰国してから13年から17年と長い時間が経過しており、除斥期間は適用できない。勧誘行為は損害賠償請求を棄却する。留め置き行為は日本の裁判所に管轄権が無く却下する」と敗訴の背景説明がなされた。

 

原告弁護団の福田健治弁護士の評価

 

 第1点目

 「一番注目したのは、北朝鮮の人権侵害を裁判することが出来ると明言したこと。さらに、北朝鮮に連れて行った勧誘行為について、北朝鮮を被告として審理をすることが出来る」と明言した。

 第2点目

 「北朝鮮での生活から脱北に至るまでを詳細に事実認定したこと。勧誘は北朝鮮が主体となって朝鮮総連を使ってやった。やったのは北朝鮮政府と認定したのは大きな成果」

地裁内での原告団の記者会見

留め置き行為に関する判決に不服

 福田健治弁護士は不服の理由について以下のように述べる。

 「北は十分に計画してプランを練り上げた結果の一体的行為という我々の主張、訴えに耳を傾けてくれたら、別の判断ができたのではないかと思う」

 原告の尋問を担当した崔宏基弁護士は、「原告の皆さんは、北の過酷な人権侵害が真実だと聞かせる客観的な証言をされた。今回は20年の時効の壁に阻まれながらも、個々のケースで詰めた結果、人権侵害の救済では大きな成果を上げられたと思う」と述べた。

法曹会館での原告団の報告会

 林弁護士は、勧誘行為と留め置き行為、北朝鮮政府と朝鮮総連の一体的行為の論理構成を担当した。以下の様に述べ、控訴に備える決意を披露した。

 「弁論記述で勧誘行為と留め置き行為の一体性が認められなかったことはマイナスポイントで申し訳ない。我々の主張について、裁判所が判断を避けてくるのは、十分に予測できたが、何処を検討したらよいか考えたい」

判決結果に関する原告の感想 最後まで頑張るが、命に限りがある

 原告の石川学さん(63歳)は「北朝鮮を相手取って日本で裁判した事実は大事だ。今後の活動の原動力になる」と述べた。

左から原告の石川、斎藤、川崎の3氏

 川崎栄子さん(79歳)は一審敗訴の結果に対して「ゼロ回答になるとは思いませんでした。裁判官の親や兄弟が被害にあったらこうした判決が出るのか。私は気の済むまで号泣したい。私たちは最後まで頑張るが、人間の命には限りがある。5人の原告の皆さんは、死ぬ思いでここに来た。昨年の10月14日の初公判には、高さん、榊原さんは杖をついて裁判に臨んだ。今回2人は欠席し3人しか裁判に参加していません。斉藤博子さんは歩行が難しくなった。原告たちの高齢化に配慮して控訴を早めて欲しい」と訴えた。

 

 日本人妻の斉藤博子さん(77歳)は、「協力的な弁護活動には感謝している。北朝鮮に渡ったら食べ物が無い、着るものが無い状態で、前宣伝とは1から10迄全然ちがっていた。朝鮮に渡った人を一人でも返してほしい。日本人妻も在日帰国者も騙されて北に渡ったのだから返すべきだ。日本人拉致被害者も返して欲しい」と訴えた。

 

裁判を支援する人権団体からのコメント

 「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の山田文明前会長は、「判決の結果はある程度予想できた。同時に虚偽宣伝が認められ責任追及ができた。あの帰国事業は何だったのか、北朝鮮と朝鮮総連の一体の不法行為を見抜けなかった政党の責任が問われなければならない」

裁判を支援する人権団体の人々

 「NO FENCE」の小川晴久代表は、61年11月に脱北した金高一さんの書いた『悪夢575日62次北送僑胞の脱出記』、朝鮮総連で帰国事業に関わった張明秀さんの『38度線突破』をぜひ読んで欲しいと強調、その他政党の責任について言及した。

 「北朝鮮難民救援基金」の加藤理事長は、「原告団には敬意を表する。判決は半分奇異に感じ、半分は諦めの気持ちだ。ロシアのウクライナ侵略を見ればわかるように、恣意的な抑圧、弾圧、拷問は当たり前、そういう北朝鮮と闘わなければ人権は守れない。法律、裁判でだけでは解決しないのが北朝鮮の人権侵害からの難しさだ。法律だけでは北に囚われている人を救うことはできない。脱出する人は全力を挙げて助けたい。それが北朝鮮、中国国内法に違反しているとしても全力で地下鉄道を準備する。」

「特定失踪者問題調査会」の荒木和博代表は「外国相手の訴訟は並大抵ではない。これだけでも大変な意味があった。今回の判決をどう使うか。北朝鮮を相手に、日本の司法体験で得たことは訴えていきたい。」「これが民主主義の国の裁判だ。判決が出たら控訴し、再び審理できる。」

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