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【News118】責任逃れの報告書 ― 入管人権意識欠く 名古屋入管局で死亡したスリランカ人女性死亡事案最終報告書 被収容者の死に対する冒涜、入管の非道 加藤 博

 名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリ(当時33歳)が今年3月に死亡した問題で、出入国在留管理庁は8月10日、医療体制や情報共有、職員のへの教育が不十分だったとする最終報告書を発表した。「危機意識に欠け、組織として事態を正確に把握できていなかった」とし、同日当時の名古屋入管局長と次長を訓告、警備管理官ら2人を厳重注意処分にした。

 

北朝鮮の野蛮な管理とどこが違うのか!?

 この最終報告書に接し、北朝鮮の深刻な人権侵害の改善に取り組む活動をする人権人道団体の北朝鮮難民救援基金には、北朝鮮の教化所(刑務所)や管理所(収容所)で虫けらのように絶命する人々の状況をつぶさに知る機会がある。

 

 名古屋入管の今回の事案は、北朝鮮の教化所や管理所から密かに届く収監経験者の証言と重なる。ウィシュマさんの死に接すると「収監者に人権はない」「警備兵の言うことを聞かなければ死ぬ目に会う」北朝鮮と何が変わらないのか、と反射的に思いつく。これが日本で起きていると思うとなんと情けない野蛮な警備官たちだ、収容施設だと、本能的に憎しみの感情さえわく。同時に日本人の警備官が投げかける心無い言葉にも虫唾が走るのだ。

 

 死亡直前に、衰弱し飲料物をうまく呑み込めずに、鼻から出した姿を見て「鼻から牛乳や」とからかう言葉を投げかけているのだ。ウィシュマさんを「重い」と小ばかにする場面もあったという。死亡前日の3月5日、食べたいものを尋ねた職員に、衰弱して「アロ・・・」と答えたのに対し「アロンアルファ?」と聞き返すなど嘲笑を重ねている。また妹のポールニマさんは、「職員は姉の存在を迷惑に感じているようだ。職員は罰を受けるべきだ」と訴えている。

 

 入管職員はいったいどのような教育、訓練、研修を受けているのか。収容者に対して偏見を持ち、差別し見下すように訓練されているとしか思えない所業である。このような警備官、あるいは看守と呼ばれる任務に就いている要員は再教育を受けるべきである。それでも矯正が効かなければ、不適応として配置転換するなど適切な措置を講ずる必要がある。

 

責任逃れの報告書

 遺族や支援団体※1は「責任逃れの報告書」などと批判の声を上げた。ウィシュマさんの遺族と代理人は8月17日午後3時参議院会館で記者会見を行った。妹のワユミさんは「死因も分からない。姉は体調が悪かったのに、なぜ仮放免を許可しなかったのかも分からない。これで最終報告者と言えるか」と怒りで声を震わせた。指宿昭一弁護士は「生命を守れる体制がない。いつ死んでもおかしくない。入管には身体拘束する資格はない」と批判する。「報告書は末端の職員に責任を押し付けようとしており、入管制度や組織全体の責任を認めていない」と非難した。入管側に問題はないという結論をひきだしたいと言う意図が垣間見える。

 

 

1万5113枚の開示文書の大半は黒塗り これが行政の正しい立場なのか

 遺族の代理人である指宿昭一弁護士は、名古屋出入国在留管理局がウィシュマさんの死亡の経緯に関する公文書の大半が黒塗りの状態で開示されたことを参議院会館で明らかにした※2。代理人は「これが行政の正しい姿か」と批判している。2020年8月から亡くなった21年3月6日までの関連文書、施設内の監視カメラ映像の開示を入管側に求め、7月15日付で開示決定がなされたと言う。ただ開示された文書の大半は黒塗りで、監視カメラ映像は不開示とされた。※2 (編集部注:表紙写真を参照)

つまり、意味のある部分は意図的に黒塗りし公開した。入管側に不都合な部分は公開しないという行政の意図が露骨に表れている。

 

 報告書が事件の核心部分には触れさせないと言う意図があり、施設内の監視カメラ映像を遺族だけに公開し、代理人弁護士の立会いを拒絶するという姿勢を貫いている。

遺族は2時間あまりあるウィシュマさんに関する映像の残酷さに耐えかねて半分だけで映像の開示を断念している。残りは別途開示の機会を残している。

 

 報告書はどう読んでも職員の対応を擁護するなど、真相解明を目指す真摯な態度や反省を欠いている。入管庁から独立した「第三者委員会」によるウィシュマさんの死亡の経緯の再調査や監視カメラ映像の全てを遺族や代理人、国会議員に開示することが必要である。真実を隠蔽することは許さないという毅然とした要求が必要である。

 

 最後に、約20年前から東日本入国管理センターで収容者と面会活動を続ける山村淳平医師の警告を紹介しておこう。

 

 「入管職員が収容者の詐病を疑い、自らが医療的判断をしたことで、必要な医療につなげられなか      った事例はこれまでも繰り返されてきた。医療体制の不備と結論づけた調査報告も、これまでと変わらない。背景にある職員の差別意識を改善しない限り、医療体制を整えても同じことが起きる。」

 

 また山村医師は、「外部のチェックが働かない入管行政のありかたこそが悲劇を繰り返してきた一因だ」と改善を求めている。

 

※1 在日外国人を支援する4団体

移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)

恣意的拘禁ネットワーク(NAAD)

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)

外国人人権法連絡会

 

 

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