北朝鮮の有事に備える 医療対応の側面から

 沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科医長 高山義浩

 

  北朝鮮難民救援基金は、北朝鮮有事の際に発生する北朝鮮難民に対して起きる様々な人権人道面の 侵害、受け入れ国の問題点、具体的対処を考える時期が迫ってきているように思います。 今号は医療面からの対応に言及された沖縄県中部病院感染症内科・地域ケア科医長の高山義浩医師 がハフィントンポストに 2016 年 12 月 14 日に投稿された興味深い記事を著者の同意を得て再録するも のです。(編集部)

有事で大量難民発生の予測

  北朝鮮そのものの不安定 もさりながら、米国、韓国と 想定外の変化に国際政治は 直面し、北朝鮮有事のリアリ ティが増してきているよう に感じられます。私たちは、 どれだけこの有事を想定し、 備えができているでしょうか。

  クーデターによる内戦状態となれば、大量の難 民が発生するリスクがあります。内戦とならなく とも、飢餓や弾圧が極限になった場合には、雪崩 のように脱北者が発生する可能性があります。も ちろん、そうならないかもしれません。ただ、核 の偶発的使用も含めて、いまの朝鮮半島には何か がおきるリスクがありますし、そのリスクを様々 に想定しながら準備をしておく必要があるでしょう。   北朝鮮から難民が発生した場合、その多くが中 国や韓国へと陸路で逃れるでしょうが、沿岸部か らボートピープルが発生することも考えられま す。いまも北朝鮮の漁船が北陸あたりに漂着する ことがあります。エンジンを動かせずに半島から 流されると、石川県から青森県にかけて流れ着き ます。かつて、「津軽」は「津が流(流れ着く港)」 でした。きちんと想定しておく必要があります。 それは万単位かもしれません。

 

高句麗滅亡時にも大量に難民漂着

  7世紀後半に百済が滅亡し、つづいて高句麗が 滅んだときも、やはり日本列島に多くの難民が流 れ着きました。当時の大和朝廷は、この難民たち を武蔵國に移して開拓にあたらせたようです。

  『続日本記』の天智5年(666 年)には「百済人 男女2千余人東国移住」とあります。その後も難 民を関東へ移したとの記述が続きます。霊亀2年 (716 年)には、武蔵國に高麗郡を設置したとあ ります。ちなみに、当時の日本列島の人口は 500 万人ぐらいでした。

 

難民保護施設設置で受入姿勢示そう

  ボートピープルの規模が小さかったとしても、 日本が軍事的貢献をしない以上は、人道面での支 援に力を注ぐ必要があるでしょう。中国や韓国の 難民キャンプに収容された難民のうち、(おそら く在日世帯を頼るなどの目的で)日本への再定住 を希望する家族がいれば、積極的に受け入れる姿 勢を示さなければなりません。韓国は混乱状態か もしれません。経済も不安定となっているでしょ う。歴史的な責任もありますし、一緒に血の汗を 流すぐらいの覚悟が必要です。それを示すことな く、冷淡な対応をとれば、日本の国際的なイメー ジは凋落するかもしれません。

  段取りとしては、たとえばこんな感じ・・・。 まず、難民保護施設(石川県、新潟県、秋田県の 3か所)を設置して収容します。難民が武装して いる場合には解除し、工作員などを見抜かなけれ ばなりません。ここでは韓国の専門家と連携する 必要がありそうですね。そして、感染症について のスクリーニングを行い(たとえば、北朝鮮では 三日熱マラリアが流行しています)、適切な治療 を施し、必要なワクチンを接種します。

 

定住促進施設で語学教育や社会適応指導

  次に、北陸・東北以外の全国数か所に(各ブロ ック公平に)設置した定住促進センターへと難民 を移送します。ここで、日本語の教育、日本社会 への適応指導、職業訓練などを実施します。ある いは、米国などへの第三国定住を求める場合には、 UNHCR と連携しながら移住に必要な支援を実施 します。

  そして、各地域に定住した難民たちへのアフタ ーケアは各自治体を通じて行っていかなければ なりません。まあ、飛鳥時代に難民に期待される 役割が「開墾」だったとすれば、現代の難民に期 待したいのは「介護」になるかもしれません。と なると、介護事業者への異文化理解に向けた支援 が必要になりそうです。もちろん、朝鮮半島に平 和が訪れた場合には、帰国に向けた支援プログラムを開始することになるでしょう。

  先日、ヨルダンのシリア難民キャンプを支援で 訪れる機会があったのですが、そこでふと気づい たことがありました。キャンプ内で難民の診療を しているのがシリア人の医師たちだってことで す。当たり前のようでいて忘れがちなことですね。

韓国語できる医師と医療特区も検討を

  つまり、北朝鮮からの難民を受け入れるとすれ ば、その規模にもよりますが、難民保護施設や定 住促進センターで診療するのも北朝鮮の医師や 看護師でよいのではないかってこと。言語や文化 の問題もクリアできますし、ただでさえ医療者が 不足している地域医療への負担にならずにすみ ます。      とすれば、これら難民を受け入れる施設につい て、外国人医師が難民に限って診療できる医療特 区として整備しておく必要がありそうです。これ で国際NGOによる支援も実効的になるでしょ う。また、法定感染症が発生した場合の対応など も、同様に特区対応とした方がよいかもしれませ ん(感染症指定医療機関がパンクしないように)。

  と、医療に限らず、各領域でこんなことを考え て北朝鮮有事を想定すべき状況が近づいている ように思います。発生してから議論していては手 遅れになりかねません。必要な法整備も進めてお きましょう。本気で考えるためには、いまの世界 における難民支援をよく観察すること、できるだ け参画しておくこと、すでに現地で活躍している 日本人を大切にすること(いざというときに呼び 戻せるようにしておくこと)ですね。

  もちろん、北朝鮮独裁体制が不安定にならない ように(下手に崩壊しないように)、軟着陸をめ ざす国際政治も期待しつつ・・・。

 

 

メーリングリストのご案内 北朝鮮難民支援基金では団体の活動や北朝鮮関連の情報をお知らせする、メーリングリストを作成しています。北朝鮮・脱北者に関するニュース・調査結果だけでなく、イベントのお知らせやボランティアの募集もメーリングリストを通して行なっています。ご登録を希望される方は「お問い合わせ」から「種別」の項目にある「メーリングリストへの登録」にチェックを入れて、ご連絡をください。 お問い合わせ