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ワームビア氏が逮捕された理由
            ワームビア氏は予定していた香港での留学が始ま る前に、北朝鮮での「ニューイヤーズイブ・パ-テイ」 ツアーに参加することにしました。ツアーの2日目の 夜(12 月 31 日)は平壌市の中心部でツアー参加者と 飲んでいて、1 名を除いて全員がホテルに戻りました。 (一緒に帰らなかったのは迷子になって翌朝 7 時ご ろにタクシーで戻った彼と同室だった男性というこ とです。)夜中の 2 時前に彼はヤンガクトホテルの 2 階の「関係者以外立ち入り禁止」の所に入って、赤い スローガン板(垂れ幕やポスターとの報道も)を盗も うとした疑いで、北朝鮮当局に逮捕されました。
証拠として、北朝鮮側は非常に明るい廊下で撮った と思われる顔も性別もわからないほど質の悪い監視 カメラ映像を数秒分提供しました。
不自然な記者会見
それから 2 カ月後、彼は約 37 分の記者会見を行い ました。本人の話で目立ったのは、堅苦しい話し方が 不自然で 21 歳(当時)の男性にはあり得ない表現の 仕方でした。用意された声明だけでなく、質問に対す る答えも一瞬のためらいもなくしていて、英語を母語 とする人らしくない表現を何回かしていました。(他の逮捕されたアメリカ人も似たような「告白」をしたということです。) 声明もジェスチャー も逮捕から 2 カ月かけ て「指導を受けながら練 習してきたよう」にしか思えません。 彼が北の当局の指示通りにしたかはわかり ませんが、「最後まで残った共産主義の独裁政権の国」である北朝鮮に引かれる若い欧米人観光客には好奇 心が強くて無謀な人が多いのです。例えば、ヤンガク トホテルの「秘密の5階」が観光客の中では有名で、 エレベーターに5階のボタンがないのに階段を使っ て訪れることがあります。暗い廊下にプロパガンダポ スターが沢山あるほか、監視カメラの管理室に見える 部屋もあって、自分たちがその景色を見せている映像 を勝手に撮ってネット上で公開することもあります。
これからも続く交渉用の逮捕
            このような狙いやすい外国人がいる限り、北朝鮮が 核ミサイルや制裁の都合で必要に応じて「いけにえの 子羊」の新規供給が確実に続くでしょう。彼が今回交 渉などに役立たなかったのは、体調の悪化で死を迎えつつあることでした。情報によると、北朝鮮に拘留さ れている外国人の内訳は、アメリカ人3名、カナダ人 1名、韓国人6名です。多くのアメリカ・カナダ国籍 の人と違って、ワームビア氏はコリアン系でもないし 伝道活動も行っていませんでした。
なぜか北朝鮮によるアジア系の拘留者はニュース に取り上げられない傾向がありますが、今回の死亡事 件で残っている人たちの釈放のアピールができると 思われます。
今年4、5月頃には平壌科学技術大学で勤めていた コリアン系アメリカ人2人(金ハクソン氏と金サンド ク<トニー>氏)が彼と同じように逮捕されました。 彼が昏睡状態になったことがまだ発表されていない 時は、本人は人質として価値があったと考えられます が、健康状態が悪化していた場合は当然ながら「交代 できるアメリカ人が必要になった」と思われます。ま た、平壌科学技術大学は韓国・米国のキリスト教の慈 善活動との関係が深く、教師で熱心なクリスチャンが 多いという話もありますので、アメリカ政府との交渉 で拘留者が必要になった場合はアメリカ国籍の大学 関係者が狙われそうです。
そのほか、アメリカ国籍の金ドンチョル氏とカナダ 国籍のヒョン・スリン氏が「伝道活動を行ったことが ある」ということで、北の当局は、相変わらず宗教的 な活動を理由に北朝鮮に滞在する外国人を逮捕し続 けそうです。
政権にとって北朝鮮人の生命は価値がない
彼が「どのように脳損傷を受けたか」、つまり「そ の原因だった心臓発作をなぜ起こしたか」はいまだにわかりません、「暴力や拷問を受けていない」と判断 されたため、「何らかの薬を飲ませたか」と考えられ ます(多すぎる量の「自白剤」と呼ぶソディウム・ペ ンタトールだったという噂もあります)。いずれにせ よ、その直後十分な救命活動が行われていないという ことは、どれだけ北朝鮮政権にとって人の生命は価値 がないということを示しています。
交渉のための価値が高いはずの外国籍人質がこう した扱いを受けるということは、逆に言うと、金正恩 政権にとって「交渉対象でない北朝鮮人の生命は大し た価値がない」と思って扱っていることを明らかにしています。
 
 
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