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寄稿 「『自由を盗んだ少年』を読んで」

 

この本の主人公は1982年に北朝鮮北部の都市、清津で生まれ、7歳から路上生活を始めた少年だ。

 

学校では「生活総和」という自己批判や友だち批判が嫌でたまらなかった。その上、継母ともうまくいかず家を出た。2歳年上の兄と一緒に「コッチェビ」と呼ばれる路上生活を始め、初めは道端に落ちたものを食べていたが、だんだん慣れて大胆になり、同情を引く表情をして物乞いができるようになった。

 

商人から売り物をひったくり、カミソリで他 人のリュックを切り裂いて盗むこともやった。そうでもしないと飢え死ぬしかなかったから。そして自由でいたかったから。コッチェビとして生きるには、殴り殺される覚悟、飢え死ぬ覚悟、凍死する覚悟の「3つの覚悟」が必要だった。厳しい環境の中でもコッチェビ同士の友情や助けあいもあり、忘れられない友だちもいた。 多くの餓死者を出した 95 年から 98 年を彼は 孤児院で過ごしている。

 

「ぼくたちのような大きい子どもたちが、孤児院の裏の杏畑の地 面を掘って、死んだ幼い子どもたちの死体を埋葬した。何とも表現のしようのない悲しみだったが、ぼくらにはどうすることもできな かった。ぼくたちができることは、子どもた ちが苦しんで死んでいく姿をただ見守り、冷 たくなった遺体を埋めてあげることだけだっ た」と語る。

 

彼はその後、中国へ違法越境して捕まり、 全巨里教化所で地獄のような8カ月を過ごす。 しかし、2000 年に大赦で釈放され脱北を決意。モンゴルの砂漠では死線をさまよった。

 

著者のキム・ヒョク氏は現在、韓国で北朝鮮研究者になっているが、韓国でも適応するまでは差別されたり騙されたりするなど、「辛いこともたくさんあった」そうだ。

 

「北朝鮮の赤でもなく、韓国の青にもなれない。ボクはその中間のパープルマンなのか?」と悩んだ時期もあったが、今は「すべては心の持ちよう。自分は本当に運がいい」と思えるという。

 

コッチェビという存在は統制の厳しい北朝鮮社会の中で例外的に統制から外れていて、 今後、北朝鮮社会の変化に一定の役割を果たすのではないかと彼は推測する。今まであまり紹介されてこなかった北朝鮮の 一面を紹介した一冊だ。『自由を盗んだ少年』 (太田出版刊 1400円+税)を多くの人に薦めたい。 

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