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【News110】北朝鮮人権侵害問題啓発週間行事に参加して 田平啓剛

 

1.国際セミナー及び国際シンポジウムの開催

 (1)2018年も標記「北」週間行事として、12月14日、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)」、「救う会」、「拉致議連」共同主催の国際セミナー「激動する朝鮮半島情勢の下で拉致被害者救出を考える」が開かれた。

「家族会」代表(田口八重子さん兄)飯塚繁雄氏、横田早紀江さん(横田めぐみさん母)、「拉致議連」会長代行(元拉致問題担当大臣、参議院議員)山谷えり子氏ら主催者挨拶に続き、菅義偉現拉致問題担当大臣(内閣官房長官、衆議院議員)及びジェイムス・スネドン氏(拉致の疑い濃厚な米国人デヴィッド・スネドン氏兄)の来賓挨拶があった。スネドン氏妹の同席もあり。

 次いで、加藤勝信自民党総務会長(前拉致問題担当大臣、衆議院議員)、竹内譲公明党拉致問題対策委員長(衆議院議員)、村上史好立憲民主党拉致問題対策本部事務局長(衆議院議員)、渡辺周国民民主党拉致問題対策本部長(衆議院議員)らの各党代表挨拶があったが、渡辺議員を除き、いずれも例年通りで型通りの言葉の羅列と私には聞こえた。ひとり渡辺議員だけは舌鋒鋭く、政権にあって何ら効果的な手を打てない与党政権への不満をぶちまけ、加藤総務会長が渋い顔を見せていたことが印象的であった。

 その他参加議員の紹介が終わった後、パネル・ディスカッションに入り、島田洋一「救う会」副会長が司会役となって、①「自由北韓放送」代表(脱北者、元北朝鮮兵士)金聖ミン(王偏に文)氏、②麗澤大学特別教授(ジャーナリスト)古森義久氏、③「救う会」会長(モラロジー研究所教授)西岡力氏の間でパネル・ディスカッションが行われた。

(2)翌15日、政府主催国際シンポジウム「拉致問題を含む北朝鮮人権状況改善に向けた北朝鮮の具体的行動を引き出すための国際連携のあり方」が、政府拉致問題対策本部及び法務省の主催と、外務省及び文部科学省の後援の下で開催された。

 「北」人権侵害の被害者のご家族からの「生の声」の訴えとして、①「北」での拷問等の結果、廃人となって帰国し、その後死亡した米国人オットー・ワームビア氏の父、②デヴィッド・スネドン氏の兄、③「家族会」飯塚代表、④同横田拓也事務局長、⑤「特定失踪者(北朝鮮による拉致の疑いを排除できない失踪者)家族有志の会」大澤昭一会長が登壇し、切ない胸の内が語られた。

引き続くパネル・ディスカッションでは、モデレーターとして、米国北朝鮮人権委員会のグレッグ・スカラド事務総長が、パネリストとして、①エバンズ・リビア米国元国務次官補代理、②韓国延世(ヨンセ)大学のボン・ヨンシク教授、③立.命館大学・薬師寺公夫教授が、それぞれ見解を表明した後、意見交換が行われた由である。

 

2.国際セミナーでの見解表明

 私自身は15日、同日開催の「北朝鮮難民救援基金」主催の行事参加のため、前述の国際シンポジウムには参加できず、14日開催の国際セミナーにのみ参加したことから、本セミナーについて、以下、詳述する。

(1)金聖ミン氏

 脳腫瘍に転移した肺癌末期から、「金正恩のいない故郷に帰る」、また「拉致被害者を取り戻す」一念で闘病し、生還した話から説き起こし、7月の米政府・議会関係者との対話、取り分け、ポッティンジャーNSCアジア上級部長の「トランプ大統領は「北」が韓米同盟を分裂させ、延いては「北」主導の統一まで夢見ていること、在韓米軍撤収までも念頭に置いていることも理解している」、「金正恩も国際関係の最後の手段には物理的手段があるという点を分かっているはずだ」とのコメントを紹介。

 更に、自由北韓放送が入手した10月作成の幹部学習用「工業部門党員用学習提綱」を引用しつつ、国連制裁の効果で住民の不満が限度いっぱいまで高まっていると分析。また、9月以降準備中であるが、米国国務省の支援で現在の1日1時間が1月から4時間放送に拡大発展するとの展望を披露した。

(2)古森義久氏

 冒頭、①今程「日本人拉致問題」が世界に知らされたことはない。②トム・ラントス人権委員を始め超党派の議員とトランプ政権において、「日本人拉致問題」が取り上げられ、米外交の中で、「核」、「ミサイル」のみならず、「人権」も重要視されるようになった。③「拉致問題」或いは人権問題が金正恩または「北」国家の命運と密接に絡むようになっており、彼は今、非常に追い詰められている、と説明。「北」が普通の国になった時、金正恩は果たしてそのまま無事でいられるか?軍事オプションによっては、「北」崩壊の可能性もある、と言及した。

 予知は難しいとしつつ、最後に、①最悪の最悪、拉致問題は日本自身が超法規的措置で実力(自衛隊)で回復することも有り得る、②「日本人拉致問題」は抑々犯罪事件である、という事実に立つ時、「北」が嫌がること、困ること、法の厳格な執行を考えなければならない、と結論づけた。

(3)西岡力氏

 拉致問題が長く解決できないのは、政府もマスコミも黙殺し続けたから、として、1988年3月の梶山国家公安委員長の参議院予算委員会での答弁から説き起こし、90年9月の金丸訪朝、91年以降8回に及ぶ日朝国交正常化交渉、97年、横田めぐみさんの拉致が明らかになったことから、「家族会」、「救う会」の発足に至ったこと、02年9月の小泉訪朝を経て、06年、政府に漸く「拉致問題対策本部」ができたこと、14年5月のストックホルム合意、更にその後の経緯を語った。

 トランプ大統領は18年6月12日の米朝首脳会談で、「北」の経済再建に要する費用は米国は負担しないと明確にした。頼られるべきは日本であり、日本から「北」への経済援助は100億ドル(約1兆円)規模とも200億ドルとも言われている。この時、金正恩が核放棄し、拉致被害者全員帰国を決断する可能性は十分にある。今こそ、最後の勝負の時である、と結んだ。

 

3.最近の日韓関係の驚くべき悪化

  私も人権人道の敵・「北」との最後の勝負の時は近い、と思っている。ところが、ここにきて、自由民主主義と法治主義という社会基盤を同じくする日本と韓国の間で、近時、大いなる摩擦が頻発している。例示すると、以下のとおりである。

(1)18年10月30日、韓国の大法院(最高裁)は、徴用工訴訟で新日鉄住金に対し、韓国人4人に1人あたり1億ウォン(約1千万円)の損害賠償を命じた。これは1965年の日韓請求権協定で「解決済み」とする日本政府及び盧武鉉政権以前の韓国政府の見解及び一般国際法に真っ向から違背する。

同様な判決が相次ぐ中、19年1月になって、大邱地方法院による日本企業の在韓資産の差し差し押さえ命令も出て、菅官房長官は直ちに「極めて遺憾」とする声明を発し、関係閣僚会議を緊急招集。同協定に基づく前例のない日韓政府間の協議に近く入る模様である。

(2)18年12月20日に発生した韓国海軍駆逐艦「公開土大王」による海上自衛隊P-1哨戒機に対する火器管制レーダーの照射問題は、直ちに謝罪があれば容易に鎮火した筈が、韓国国防部の変遷する説明や理不尽な抗議の為、今や幅広い日本国民の嫌韓、反韓感情を否応なく、不必要なまでに引き起こしている。過去、どんなに日韓関係が険悪になろうとも、底流にあった軍事当局間の下支えも今や風前の灯になろうとしている。

 海軍の意向を越え暴走しているようにも見える政治主導に、海軍並びに海洋警察艦船の我が国EEZ内の存在は、当初説明されていた遭難北朝鮮漁船の救援にではなく、国連制裁破りの瀬取り行為に何らかの関与をしていたのではないのか?等の憶測さえ生むに至っている。

(3)18年11月26日、我が国からの事前の抗議・中止の申入れにも拘らず、韓国国会議員団が竹島に大挙して上陸した。

(4)18年11月21日、韓国政府は、従軍慰安婦問題に関する「和解・癒し財団」の解散を発表した。これは、15年12月に米政府の仲介もあって締結された「日韓合意」で、慰安婦問題は「最終的且つ不可逆的に解決」となり、日本が拠出した10億円を財源に16年7月に設立されていたものである。本問題も抑々は、前出の1965年日韓請求権協定で日韓両政府の同意の下解決した、とされていた。

 

4.人類社会の大いなる危機

 トランプ大統領の登場によって、古き良き時代の米国は失われた。ロシア疑惑の追及等によって、何とか軌道修正しようとする米国社会の揺り戻しの動きは見られるが、何処までその自制・自浄作用に期待できるのか?そのような内向きの米戦略もあって、文在寅韓国政権の余りもの親「北」路線は不安・不審の種である。韓国が「北」に飲み込まれてしまうのではないのか?韓国の自由で民主的な社会が、習近平・中国とプーチン・ロシアの後ろ盾を得て、「北」の独裁・軍事・秘密警察体制下の奴隷社会に貶められてしまうのではないのか?

仮にも韓国が「北」の圧政下に貶められてしまうと、只でさえ衰退著しい日本の「九条」関連活動は、その息の根を止められるであろう。真の人権人道主義、平和主義が愈々袋小路に追い遣られている。私には今、東アジアが、また世界が未曾有の危機に直面しているように見えて仕方がない。その突破口は果たして何処にあるのか?

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コメント: 2
  • #1

    あさひ (火曜日, 22 1月 2019 22:37)

    実情が厳しい、前途が悲観てき。突破口と言えば、日本としては韓国ような朝鮮戦争中、北朝鮮へも抵抗できず国が縁切りしかない。日本の周辺が品格低い国ばかり、絶望のが当たり前わ。

  • #2

    反共十字軍の一戦士 (木曜日, 31 1月 2019 12:57)

    縷々事実関係が手際よく纏められているが、筆者の本来の主張は4.にあるのでは?
    私は思い切って、信頼の置けない韓国とは手を切って、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)等も早急に破棄すべきだと思う。機微を極める軍事関係において、裏切り程怖いものは無い。
    大多数の罪の無い韓国一般庶民のことを慮ると切ないが、国境線が対馬海峡に迄下がる事態も十分に覚悟する必要がある。

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