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寄稿「北朝鮮での漁労生活を振り返る」

 

文 松原東秀
最近、日本海岸に北朝鮮の漁船が多く漂着しているニュースを耳にすると心が複雑です。

なぜかと言うと、私も北朝鮮に住んでいる時は漁船に乗ってイカ漁をしていたからです。清津(チョンジン)市をはじめ、朝鮮東海(日本海)地域では、夏場にイカ(北朝鮮ではタコという)漁ができなければ生きていくのが大変なのです。

海岸地域の人々の最大の稼ぎ時はイカ漁の時期です。イカ漁の漁期は7月下旬から9月末です。最初は、15cm位の子イカ(別名水タコ)から捕獲開始しますが、8月中旬からは35cm以上の大イカになります。イカ漁船はほとんどが木造船で、長さが約5~6mほどで6~8馬力のエンジンです。12馬力程度のエンジンを積む船は長さが10m位で、潜水夫達が潜水も可能で帆船と呼びます。帆船は沿岸で貝、ワカメ、タコ、昆布、ナマコなどを潜って捕獲する船で、イカ漁の時期には昼は潜水作業をし、夜にはイカ漁の作業をします。

北朝鮮では200馬力の鉄船はイカ漁の最盛期に出漁します。燃料問題のため、200馬力の船も個人請負制で、漁獲物を船主8、請負人2の割合で分配します。例えば、100杯を漁獲すると船主に80杯、本人が20杯を得る方式です。30杯位しか獲れなかったときは、船主が燃料代として全て取り、請負人には一杯も残りません。6〜8馬力の小さな木造船の場合には、6:4とします。

イカ漁には、道保衛部や軍部隊の保衛部が発行する許可証(海の出入証)が必要になります。これがなければ出漁できません。しかし、出入証がなくても、沿岸警備隊に捕獲物20%を賄賂として差し出し、漁労する場合もあります。イカ漁をする人達は釣り道具(ほとんど中国製)、弁当、水を持って午後2時に桟橋に集合し、3時に出航します。出発して4~5時間かけて漁場に向かい、到着後は一睡もせずイカ漁をします。一晩で平均40杯位、多くて80杯です。漁が終わると、船主は各自が獲った杯数をチェックして60%を徴収し、約7時間程度かけて港に戻ります。埠頭には魚を売買する人達が待機していて、ここですぐに売る人も居るし、持ち帰って乾かしてから、正月や旧正月に高い価格で売る人もいます。

なぜ北朝鮮で漁船の遭難事故が多いのか
北朝鮮では、コンパスだけ持って出港し、イカの漁期には小さな台風でも出漁します。台風時にはイカが豊漁だと云われ、そのため海難事故が多く発生します。私がいた当時(1998~2002年)には、清津市新津洞にある東港に、木造船約80隻、西港に20から50馬力の鉄船が40隻ほど有りました。南清津埠頭に木造船約50隻、漁大津(オデジン)水産に約80隻あったと記憶しています。

イカ漁が過ぎると、次はカニ漁です。カニ漁は海に網を下ろし、一週間以上その海上に留まる必要があります。他の船が網を盗まれるのを防ぐため、あと、台風でも網を守るためです。12月から2月までは明太(鱈)漁をします。咸鏡北道の花台郡(ファデグン)舞水端(ムスダン)の方には、昔から明太、ホッケ、イカ、カレイなどの水産資源が豊富で、舞水端周辺の海は、特に500-1000mの水深があり、まるでサザエのように潮流の渦が激しい特異な場所であり、ここに間違えて入って漂流し、遭難した漁師が多いと聞きました。ここは、好漁場の明川(ミョンチョン)沖がすぐそばにあって、漁大津水産事業所、金策(キムチェク)水産事業所をはじめ、大きな水産業者と漁船が集まっているのです。

劣悪な装備で命をかけた無理な操業が心配
最近のニュースによると、日本の海岸に漂着した船は小船が多いと伝えられていますが、どうやって小船が漂流して1ヶ月以上耐えたのかが疑問です。私がいた時も、海上で闇の取引が行われました。例えば、イカ漁の最盛期には、小船が港に出入りするのが面倒だから、何日も海に泊まって作業した時もありました。そこで、毎日漁獲した魚を公海上で大きな船に売り、魚と必要な食料、お金、水、燃料と交換します。小船から魚を買い入れる船の多くは、大きな企業か中国と関係がある漁船です。また、北朝鮮の小型漁船は燃料が切れても櫓があるので、最悪の状況でなければ、いくらでも長い時間を堪える事が出来るのです。

最近、日本海域に押し寄せる漁船が多い理由として、生活の困窮による無理な操業、舞水端海域の潮流が激しい潮合に間違って入り込んで生じた結果だと思います。北朝鮮に対する制裁が強まるほど、生存に必死な身悶えとして、北朝鮮住民の無理な操業と命をかけた闘いは続くでしょう。海洋資源に対していかなる保護措置も取られてないまま、劣悪な装備で漁労海域を探して、遠海に出航するしかない北朝鮮漁民の立場があまりにも心配です。

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