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朝鮮半島有事事態と難民問題③

北朝鮮木造船の漂流、漂着の意味するもの(加藤博)
2018年1月6日浜松町の人権ライブラリーで行われたセミナーでは、当団体の理事長を務める加藤より、「北朝鮮木造船の漂流、漂着の意味するもの」と題して、難民発生の可能性に言及。続いて、函館の松前小島で北朝鮮漁船員の窃盗事件で捜査員が防護服を着用した捜査についても触れました。

続いて、髙山義浩・沖縄県立中部病院感染症内科・地域医科長より、 「難民問題における感染症の諸問題」、石井宏明・難民支援協会常務理事がアフリカ、 中東における経験から難民問題について報告。

これまでは、朝鮮問題専門家あるいは北朝鮮の人権問題を扱う専門家から、活動の話を聞く機会が多かったが、今回のセミナーは、医療の専門家、難民問題の専門家からの論点が非常に新鮮で問題提起や示唆に富むものでありました。

北朝鮮木造船漂流・漂着が104件、史上最高を記録
漂流する北朝鮮の木造船が、日本海沿岸に向かって漂流し、漂着している件数が増加の一途をたどっている。それが 10 月、11 月、12 月と年の瀬に向かってこれまでにない爆発的な傾向に。海上保安庁は 1 月4日、北朝鮮籍とみられる木造船の漂流・漂着が 2017 年は104件確認されたと発表。前年と比べ 58%増え、統計を取り始めた 2013 年以降で最も多い。11月に急増して28件、12月は45件に上り、月別の確認件数でも両月が過去1、2番目の多さとなった。 確認された遺体は35遺体、生存者は42人で、いずれも過去最多だった。海保は、日本の排他的経済水域(EEZ)で操業していた船が、10月下旬以降の荒天によって流されたと分析。日本海中部の好漁場「大和堆」で違法操業への監視を強化したことも確認の増加につながったとみている。 かつて、清津でイカ釣り漁船で働いていた脱 北者で日本に定住した元漁船員は、海保の分析に加えて、清津沖の複雑な海流と、季節風の影響があり、船が7メートルから20メートルまで平底の木造船は外洋の荒波に弱い構造的な弱点があると指摘する。沿岸漁業向きの10馬力程度の エンジンの船では、遠洋の荒海での操業ではスクリューがきかなくなり、操船不可能になる。また、スクリューがプラスチック製であったり、湖沼用のエンジンで航海に適さないな ど、構造上の不的確な装備も指摘されています。

大量漂流、漂着の背景
金正恩労働党委員長の「先軍政治」と「経済発展」の併進路線を実行しているのが背景にある。先軍政治による軍事優先とともに労働党主導の政治で民生安定を図る方針転換により統治機能を高めようとしている。しかし、国際的な経済制裁によって、外貨獲得に圧迫を受けており、民生用に外貨が回らない。実際には外貨不足を補うために自国の沿岸漁業者(党39号室、軍所属の水産事業者)の東海岸の沿岸漁業権を、様々な条件を付けて中国に売り渡しています。

党への上納金(割り当て金)支払い義務が高いために、無理をしても、より遠い大和堆のような「黄金」漁場に出漁せざるを得ないのが現状だと言われている。ノルマが果たせない場合は、制裁(罰金、教化所送り)、再出漁不許可などに直面する。 国連の経済制裁による外貨不足を補うために、 漁業による外貨稼ぎが積極的に奨励されている。 蟹漁の場合は、さらに大規模な漁船、漁網が必要で大規模な水産事業所、中国船が行う。(朝鮮の水産事業所が中国漁船との契約で漁をする例がある) 漁業関係者が出漁する場合は、必ず「洋上出入許可証」、「ディーゼルエンジン・オイル」「小型船舶」を入手しなければいけないのです。船は個人が調達し、船主、あるいは船長となり、形式上軍であれ、水産事業所に所属する形をとる。船の燃料の確保は船長が負担することになります。

2017年の北朝鮮木造漂流船、104隻はボートピープルの予備軍を準備する
海流や、季節風、木造平底ボートの無謀な 遠海での操業による漂流事故、遭難があっても生存者42人が北朝鮮に及ぼす影響は、計り知れない衝撃を与えるはずで、日本の排他的経済水域(EEZ)の大和堆迄に行けば、海流や季節風に乗って日本に到達できることを暗示しました。

日本の海保に保護された漁船員は、当然、聞き取り調査を受けます。海保の調査が終われば、警察か入国管理局からも、それぞれの立場から聞き取り調査を受け、事故の理由や、日本の領海に達するまでのこと、同乗者のこと、事件性があるのかないのかなど様々な聞き取りが終わるまで日本の施設に収容されます。

聞き取りが終わるまでの間、清潔な寝床、3度の食事が与えられ、お茶なども出され、冬であれば暖房があり、夏であれば冷房もあるでしょう。こうした体験が、北朝鮮に戻った時、周囲に一言も語られないとは言えません。

国家保安省が監視
北朝鮮では日本で見たこと、聞いたこと体験したことを一切外部に向かって発言しないと国家保安省(元国家安全部=政治秘密警察)から誓約書を書かせられ、最低でも1年間の監視がつきます。誓約書が守られているか、何か不審な振る舞いがないかなどが厳しく監視され、お互いに知らない国家保安省の要員 2 人が 1 人の元漁船員を監視、1人が漁船員を監視します。さらに、もう1人の国家保安省の要員が別の要員を監視し、違反がないか相互監視と上級へ報告します。それでも、日本で起きたことを自分の家庭の中で妻にも、親族にも一言も語らないとは考えられません。日本では何を食べていたかを聞かない妻はいないだろうし、兄弟姉妹もいないでしょう。3 度の食事が食べられないほど貧しい漁師たちが食べた白いご飯やおいしい弁当、お茶の香りまで思い出すことは想像に難くないことだからです。

こうして日本に対する公式的な宣伝イメージが壊されていくのを北朝鮮政府は最も恐れています。それは、真実を知れば、支配が崩れるからです。敵視政策で教えられた事実と実際に自分が受けた経験とを対比でき、真実を知る権利、比較する自由の大切さに覚醒するかもしれません。人権や人道が何かを学ぶ。そして、人々はそれらがあるところを目指して進むでしょう。漁の最盛期に千隻の船がイカ漁に出た時、その中に日本を目指す北朝鮮に暮らす、拉致被害者や子どもや関係者が混じることもあるでしょう。これまで陸路を通じて、200人近くの人々が日本に戻ったように、今度は海路を通じて、さらに多くの人が日本の土を踏むことがあるように思えてならないのです。

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