北朝鮮難民救援基金
2018年6月16日
2018年6月12日、史上初の米朝首脳会談が行われ、合意文書が交わされた。 大方の期待に反し、この合意が東アジアに平和と安定をもたらすかどうかはまだ全く見えない。
トランプ・アメリカ大統領は、金正恩委員長から「完全な非核化」を目指す約束を取り付けたと主張するが、合意文書には具体的に何も保障されていない。
国連の人権理事会が任命した北朝鮮の人権侵害を調査するCOI(Commission of Inquiry=事実調査委員会)の報告書が「深刻で、広範囲で、組織的に行われている」人権侵害が「人道に対する罪」であると断じている。そして、国連安保理が国際刑事裁判所(ICC)に訴追し、北朝鮮の国家指導者を処罰するよう国連総会で決議している。
それにもかかわらず、この合意文書には「人権」の文言は全く見当たらず、北朝鮮難民救援基金を非常に落胆させるものだった。
トランプ大統領は昨年11月の演説で、北朝鮮の強制収容所で拘束され、虐待を受けている10万人に言及し、さらに今年2月にはホワイトハウスに脱北者を招き、北朝鮮女性の人身売買を自分が「止めさせる」とまで宣言した。このような経緯から、北朝鮮の人権侵害問題を扱う300を超える世界のNGOが、人権侵害改善につながる何らかの手がかりを見出すことを期待したが、見いだすことはできなかった。
事実、当基金もICNK(International Coalition to Stop Crimes against Humanity in North Korea)の一員として、今月初めに人権状況の改善努力を求める連名書簡を金正恩氏に送ったのだが、金正恩委員長の耳には達していないのかもしれない。
5月に北朝鮮が非核化を世界にアピールするために、アメリカ、イギリス、中国、ロシア、韓国などの記者団を招いて咸鏡北道吉州郡豊渓里の核実験場の爆破ショーを公開した。これについても、この核実験場を建設するにあたって、16号、22号管理所(収容所)から2000人を超える政治犯が動員された。建設が終わったあと誰一人として元の収容所に戻った者はいなかった、と収容所の元警備兵であった安明哲氏は、証言している。2000人の政治犯は証拠隠滅のために実験場の坑道爆破とともに葬られたことになる。どのメディアも爆破ショ-を報道しても2000人の政治犯の人権を論じたメディアがないのも憂慮すべきことだ。
北朝鮮の現体制の維持は、核開発、大陸間弾道ミサイル、大気圏再突入、多弾頭化技術の完成によってより強力に保証されると北朝鮮指導部は信じているのではないか。 完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)なしには、北朝鮮の深刻な人権侵害をとめる方法はない。北朝鮮が提案する段階ごとの取引には厳しい監視が、引き続き必要ではないか。