はじめに
恒例の北朝鮮人権侵害啓発週間が12月10日から1週間の予定で始まった。この週間は、北朝鮮人権侵害対処法(正確には「拉致問題とその他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律」)が日本で制定された2006年から継続的に行われている。
政府は、地方自治体、NGOが北朝鮮人権問題を啓発することを求めている。北朝鮮難民救援基金は、毎年この週間にイベントを開催してきた。2018年は、文京区民センターでイベントが催された。
地下教会で働いた疑いで逮捕、拷問
最初に登壇したのは、北朝鮮の地下教会で働いたために逮捕され、7年間の牢獄を経験したキリスト者を招くことになった。
安さんは1949年平壌で、熱心なキリスト教徒の家庭で生まれた。平壌は、「かつて東洋のエルサレム」と呼ばれたほど、キリスト教が盛んで、落ち着いた美しい町だった。家庭では朝食前に食卓を前にこうべを垂れて感謝の言葉を唱えていた。小さい頃は意味が分からなかったが、キリスト教の家庭の雰囲気は好ましいものだった。
金日成が政権を握ると事態は一変
金日成が政権を握るとキリスト教とクリスチャンに対し迫害が始まった。
学校や他人の家に行ってキリスト教の話をしてはいけないと父母から注意されて育ったのだ。だが、家は比較的裕福だったので高い学校教育を受けることが出来た。
「漢方」を学び、人を助ける
他人に必要とされ、愛される人になるためにはどのような上級の学校に行けばよいか考えるようになった。答えは、病気に悩む人を治療する、その助けになるために薬学の専門学校に入学することだった。
薬学と言っても自然に自生する薬草を基本とする「漢方」で、民間療法で使われるものだ。これは広く人々の実生活で利用されている。今でも有効な治療法だ。
学校を卒業して、配置された会社は、生産財を生産する国営大企業で必要な資材を供給する担当責任者で朝鮮各地を旅行する立場にあった。
人里離れた山の中で聖書を読み、ミサ
旅行先で病人に遭うと薬を調合し、病気の治療を行った。そしてどのような薬を使えばよいかを村人にも教えた。その薬草を手に入れれば市場で売ることもできて、家計の助けになり、他人から感謝もされると教えて歩いた。
地方の地下キリスト教徒や地下キリスト教会を訪れ、皆で薬草とりに行くと称して、里から離れた山の中や頂で聖書を読み、ミサを行った。
しかし、この隠れた行動が発覚する事件が起きた。高熱で意識不明の少年の治療にあたっていた時のことである。
調合した煎じ薬をいくら与えても症状が回復しなかったので、誰も少年の枕元にいない時、「ハナニム(神様)お助けください」と繰り返し願いをささげた。それでも少年の症状は回復しなかった。ところが、一晩を過ごした朝になると奇跡的に意識が戻り、次第に回復した。人々はこれを喜び、彼女に感謝した。
夢の中で聞いた「ハナニム」で逮捕
村の安全員(警察官)が、誰も治すことのできなかったのを不思議に思って、病み上がりの少年に、なぜ「病気が治ったと思うか?」と訊ねたところ、「良く意味は分からないが、夢の中でハナニム、ハナニムという声が聞こえた」と語った。
この一言で、安さんは村の警察で逮捕され、郡、道の警察で1年間にわたって残忍な拷問と取り調べを受けた。1988年に、迷信を流布したとして价川(ケチョン)教化所(刑務所)に収監された。そしてそれから7年間、厳しい労働と貧しい食糧の中で苦難の日々を過ごした。
刑期が終わって自宅に戻ったが、仕事はなく、監視対象である日々に耐えられなかった。行動の自由がなく、北朝鮮にとどまる理由も見つけられず脱北を決意する。
2011年に脱北、韓国に入国許可を受け定住している。
安さんは与えられた1時間40分でも体験したことを全て話すことはできない、と主催者にクレームを出した。
私の体験を全て語るために、必ず本にして出版するつもり、と言い残して降壇した。
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