前英国駐在北朝鮮公使太永浩氏の当選が持つ意味 

NKDB 尹汝常

 第21代総選挙で太永浩(太救民)氏が脱北者出身では初めて大韓民国地方区選出国会議員に当選した。

 いくら保守党の菜園といわれるソウルの江南であっても、相手は国会事務総長を務めた大物であり、多くの人々が太永浩氏公認自体を認めたり友好的でなかったので太永浩氏は敗北するという予測も多かった。

 しかし太永浩氏は民主党が全国的に圧勝した今回の選挙で江南甲選挙区全投票者の58.4%を得票、相手候補(39.6%)を軽く下して当選した。これを見て多くの人々は「江南成金の既得権守護」という評価を下している。実際、与党民主党がほとんどの選挙区を席巻したソウルで、唯一江南だけが保守党である未来統合党の票を集めた。それで江南では未来統合党が当選した。未来統合党の主な公約中の一つが総合不動産税廃止だったので、大韓民国最高の富裕層は自分たちの財産を守るために保守党に票を入れたのだ。

 これに対して成金の既得権を守るという評価がほとんどだが、事実、江南に住む金持ちは自分たちがどれほど重要な選択をしたか分からないだろう。

 2019年12月末基準で、我が国で来た脱北者は合計33,523人である。1990年代末、北朝鮮の苦難の行軍時期以後急増した国内脱北者数は、2000年代初期に月500人以上になった。そして2010年代中盤以後非常に減ったが、今でも相変らず月に100人程度入っている。しかし、彼らの大部分は韓国で非正規職や日雇いを転々として経済的に安定した生活をできずにいる。2019年に起きた脱北民母子死亡事件以後、政府が脱北民脆弱階層を全数調査すると、政府の緊急支援が即必要な「危機疑い者」が553人に達するほどで、韓国で脱北者の生活は容易でない。個人の能力と実力が認められる自由市場競争体制の韓国で、党(政府)に指示されるままに暮らしてきた脱北者が適応できないのは当然のことだ。新しい人生の夢を持って(韓国に)来た多くの脱北者が、苛酷な競争社会に適応できずに苦労して暮らしている。

 その結果、北朝鮮では生きられないと命を賭けて北朝鮮を脱出した人々が、再び韓国で生きられないといって北に戻る場合もある。昨年の国政監査資料によれば再北朝鮮入国脱北者は2012年と13年にそれぞれ7人、14年と15年にはそれぞれ3人、16年17年にはそれぞれ4人の合計28人だった。しかし、政府が把握できなかった事例もあるので再北朝鮮入国脱北者は約30人以上になると判断されている。

初めて再北朝鮮入国した脱北者が出たとき、北朝鮮では彼を大々的にメディア出して北朝鮮体制の優秀性を説いた。しかし、最近はそのような場合はほとんどない。なぜだろうか。理由はTVに出てきた脱北者が白く滑らかな肌、ふくよかな顔を見せ、北朝鮮住民たちにむしろ「ああ、韓国に行けば皆あのように白い顔に、ふくよかに太ってくるんだ。私も韓国に行けばあのようになれるんだ」という幻想を植え付けた。だから再北朝鮮入国した脱北者を宣伝道具に活用していないのだ。

 そうした点で太永浩氏の大韓民国国会議員当選は、北朝鮮住民たちに大韓民国が「真の自由と平等が保障される機会の地」と見られるものである。人を変化させて動かしているものを挙げるなら、それは愛とお金、そして自由だ。その中でも最も恐ろしいのは自由だ。人間は自由なだけで幸せだという話があるように、自分と家族、私たちの自由のためには命も捧げることができる。人類はその血を流して自由を勝ち取ってきた。だから北朝鮮高位公職者出身の太永浩氏が大韓民国で国会議員に当選したことは、南北統一において本当に意味のある道標になるだろう。

 

 太永浩国会議員、江南の金持ちはそこまで分からなかっただろうが、彼らは北朝鮮の変化に多大な貢献をした。そしてそれが南北統一を早めるために大きな役割をするものである。

 太永浩氏が統一の呼び水だ。真に歴史的な瞬間だ。

 

※NKDBは韓国にある「北朝鮮人権情報センター」で、北朝鮮の人権状況を調査・研究している民間団体である。同センター付属機関の「北朝鮮人権データーベース」には膨大な人権データーが蓄積されている。尹汝常氏はデーターベースの代表を務めている。

 

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