【声明】金正男氏暗殺事件について

 2017 年 2 月 13 日、北朝鮮労働党の金正恩委員長の異母兄・金正男氏がマレーシアのクアラル

ンプールの国際空港で VX ガスによって暗殺された。2013 年 12 月 12 日の同委員長の叔父・張成

沢行政部長の処刑にもまして、その時代錯誤的な愚行が世界を驚かせている。儒教社会とされる

北朝鮮国内においても、「兄殺し」という許されない蛮行の隠然たる影響が、今後、北朝鮮国内

の一般庶民の中にも広く波及していくことだろう。

 2011 年 12 月 17 日の金正日総書記死去後、金日成唯一思想体系を受け継ぐ金正恩の唯一領導

体系の下、金一族の3代弾圧体制が実現され人民民主主義の大義に背く王朝支配が引き続き2千

万国民を塗炭の苦しみに追い遣ってる。

 世襲政治に批判的であったとされる、2代目金正日総書記の長男・金正男氏は抑々政治に無関

心であり、野心もなかったにも拘らず金正恩政権に対する潜在的脅威として、独裁者たる異母弟

の猜疑心から、予防的に殺害・排除されたものと一般に観測されている。

 生死に関わる飢えの危険や自由への渇望、物心両面の止むに止まれぬ思いから、北朝鮮の国境

を越え、安住の地を求めて逃れてくる難民達への救援を使命とする「北朝鮮難民救援基金」は、

この人道にもとる殺害事件に心底抗議の意を表明すると共に、今後の非人道的な殺戮の連鎖に深

刻な懸念をあわせ表明するものである。

 3月1日に開始された米韓合同軍事演習は今年、過去最大規模の参加兵員を擁すると共に、

「北」の独裁者の殺害を直接に目的とする斬首作戦、地下深くの核ミサイル施設破壊を企図する

地中貫通爆弾(バンカー・バスター)のテストを含んでいる。これに対抗して、「北」は早速移

動式固形燃料ミサイルの多数同時発射の試射で応じた。米韓側のミサイル防衛に対する「飽和攻

撃」示唆の応酬である。今後、更に新たな核実験や、より長距離のミサイル、米本土に迄到達す

る ICBM(大陸間弾道弾)の試射も警戒されるところである。

 「北」の威嚇に戦略的忍耐ではなく、軍事費予算の1割超増、核能力の更新・拡充で応じるト

ランプ米政権。台湾・蔡英文総統との電話会談に始まる「ひとつの中国政策」に関わる同政権の

言動の変遷を辿れば、「米朝協議時期は既に逸した」と説くトランプ大統領の言動は信を置くに

足らず、その実際の将来行動は予測困難である。本件協議開始の可能性とは逆に、1994 年5~

6月、クリントン政権が結局は発動をちゅうちょした「北」への軍事施設先制攻撃は、トランプ

政権にあっては有り得る。

 しかし、「北」の報復による被害は韓国のみならず日米にも及び、更にその規模は想像を絶す

るものとなるかもしれない。仮にも米軍の「北」攻撃、更にこれに引き続く「北」侵攻があれば、

習近平の中国が座視はしないだろう。第二次朝鮮戦争の勃発である。

 このような北朝鮮有事になれば、日本海を渡って大量難民が漂着する可能性がある。当基金は、

20 年近くの北朝鮮難民救援活動から得たノウハウを役立てるべく、医療機関も含めた関係機関

と連携して有事の救援活動を実施できるようにしたい。

 動乱に至らないとしても、韓国の不安定な政情には別の心配がある。前回の大統領選挙で保守

派の最後の砦とされた朴槿恵大統領の罷免退陣によって、5月9日の大統領選挙が告示された。

有力な候補は今のところ、全て「進歩」派と称される親「北」親「中」の左翼候補ばかりである。

与党の自由韓国党(前「セヌリ」)の頼みの綱とされた黄教安大統領代行や潘基文前国連事務総

長らの不出馬表明を受け、最有力候補として支持率トップを続けているのは最大野党「共に民主

党」の大統領候補・文在寅氏であ。自殺した盧武鉉元大統領の盟友であり、「大統領になったら、

真っ先に平壌に行く」と公言している人物でもある。

 かつて金大中、盧武鉉政権下では北朝鮮に融和策をとりながら、核・ミサイル開発の余裕を与

えた。北朝鮮難民救援活動に対しては非協力ないし敵対的な政策がとられた。我々は同じ政策の

再現を深刻に懸念する。

 

2017 年 3 月 21 日 北朝鮮難民救援基金

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