【News112】『三階書記室の暗号』発刊記念講演会

 

2019年6月20日、東京都文京区文京シビックセンターで、元北朝鮮イギリス公使である太永浩氏を招き、「ポスト・ハノイ 金正恩の核交渉戦略と私達の対応」というテーマで、講演会が開催された。

 

今回の講演会は、北朝鮮難民救援基金が主催し、北朝鮮の難民と人権に関する国際議員連盟、アクション・フォー・コリア・ユナイテッド(AKU)、北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会、NO FENCEが協賛団体として名を連ねた。

 

会は太永浩氏の安全警備を前提としたため、事前登録制で参加者を募ったため、参加者が少ないのではないかという懸念があったが、市民活動家、北朝鮮問題専門家、メディアなど80人以上が参加する盛況であった。

 

募集開始直後に、規定参加定員人数を大幅に超える参加申請があり、北朝鮮をめぐる国際情勢への関心の高さは、予想以上であった。

太永浩氏の40分ほどの講演の後、パネリストとして、コリア国際研究所所長の朴斗鎮氏、宮塚コリア研究所代表の宮塚利雄氏のコメントが続いた。

 

その後、参加者からの質疑応答の時間を持ったが、時間内では、出された質問に答えることができないまま終了した。主催者側は出された質問の全容をホームページで紹介することにしている。

 

あくまで核放棄を推し進める必要がある

 

太氏は講演の中で、「北朝鮮は、日本、韓国、アメリカの民主主義システムの構造的な弱点を把握し、5年の政権交代の周期で新たな合意を結び、核開発を進めてきた。金正恩もその政策を踏襲しており、自由民主主義国はそのことを知らなければならない。また、アメリカは北朝鮮と交渉するにおいて、核放棄と体制維持の条件交換の順序を間違えてはならず、あくまで核放棄を推し進める必要がある」と語った。

 

また、「アメリカは多くの経済制裁方法があるが、それを使わずにいる。例えば、公海上の北朝鮮籍船に対するアメリカの保険会社や、北朝鮮の在外公館と取引のある金融機関にセカンダリーボイコットを引き起こせば、北朝鮮を追い詰めることができるが、それをせずにいる」と述べた。

拉致問題に対しても言及。「現在の政府間対話では平行線であるが、日朝平壌共同宣言に署名した小泉元総理が、安倍首相と金正恩委員長の仲裁をし、双方を引き合わせる方法を個人的に考えている。

アメリカでは大統領経験者が公職を退き、非公式な交渉から成果を上げたことがある」と指摘した。

 

絶えず人権向上について訴える必要がある

 

さらに、北朝鮮の人権問題に関しては、「ここ十数年で、国際社会が北朝鮮に対して、国民の人権の向上を絶えず訴えてきたおかげで、人権状況は少しずつ変わってきている。

これからも、国際社会の場で、絶えず人権向上について訴えていかなければならない」と必要性を強調した。

 

パネリストの朴氏は「太元公使の発言には全面的に賛成。トランプ大統領においては次に選挙が控えている中ではあるが、北朝鮮の戦術に惑わされずに、戦略を考えていく必要がある」と話した。

 

宮塚氏は、「太元公使が書かれた今回の本の中で、自身の本貫のことを非常に詳しく書き記しており、感激を以て本を読んだ」と述べ、「北朝鮮は様々な問題を抱えているが、最終的には人権問題から切り込んでいくべき。中国もロシアも人権問題については反論できない」とした。

 

その後、参加者からの質疑応答も、経済制裁から人権問題まで多岐にわたっている。

 

 

<筆者所感>

1996年、ザンビア駐在北朝鮮大使館3等書記官であった玄成日氏が脱北し、同年、韓国・国家安保戦略研究所の責任研究委員となった。その研究成果物として上梓されたのが、2007年8月、韓国で出版に至った『北朝鮮の国家戦略とパワーエリート』である。その後、2016年9月、高木書房社からこれの日本語訳初版本が出された。

これと比較対照するにつけ、太永浩氏の単なるエリート外交官を超えた覚悟、或いは必死さを感じないではいられないのは私だけだろうか?

 

 

<関連情報>

本講演録のDVDが完成し、北朝鮮難民救援基金・日本語版ホームページで案内のとおり、送料込み1枚1500円で頒布しています。

また、太氏の著作『三階書記室の暗号 北朝鮮外交秘録』の日本語版は文藝春秋社刊で本体2200円、全国の書店で販売されています。 

 

「講演と質疑応答」全文については、北朝鮮難民救援基金の日本語版ホームページ「最新ニュース」、「国際・政治」の項、2019年8月4日講演録、「『三階書記室の暗号』日本語版発刊記念講演会」を参照ください。(編集部)

 

 

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