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【News117】適正な難民認定が行われるような制度の改善こそが必要 名古屋出入国在留管理局でスリランカ人女性が死亡  加藤 博

行困難、外部病院での治療の訴え 2度の「仮放免」申請を却下

 3月6日、ウイシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が施設内で死亡した。彼女は日本で英語を教える仕事に就こうと2017年に来日したが、日本語学校の学費が支払えなくなって在留資格を失った。

20年8月に名古屋入管に収容された後、体調が急速に悪化していった。

 

 出入国在留管理庁がまとめた死の経緯に関する中間報告書によれば、彼女は1月中旬ころから吐き気や嘔吐を繰り返し、体のしびれを訴えた。歩行困難になるほど衰弱が進み、下旬に「容態観察」のための監視カメラのある単独房に移された。

 

 頻繁に面会していた支援者らによれば、健康状態が悪化してからは、点滴や外部の病院での治療を複数回訴えていた。健康上の理由などから、一時的に収容を解除する「仮放免」を2度にわたって申請していたが、認められなかった。入管当局の対応が適切であったのかどうかという疑問が支援者の間から出され、世論が大きく動いた。(表紙写真を参照)

 

 

入管の「中間報告」に外部診療の記録が欠落 必要な治療を受けさせるべきだった

 2月5日に外部病院で診療を受けた際の診療記録には「(薬を)内服できないのであれば、点滴、入院」の記述があった。また、救急搬送された外部病院での血液検査やコンピュータ―断層撮影(CT)検査の結果について複数の医師が「集中治療室での高度医療が必要なレベルで、もっと早く病院で治療を受けさせるべきだった」と分析している。

 

 しかし中間報告書には点滴や入院の記載はない。事実の意図的な欠落か無自覚的なものなのか現時点では明らかでない。

 入管庁の「点滴、入院」は途中段階の所見、検査した結果、診断の結論は施設内での薬の服用継続だったとしている。報告書の「改ざん」の指摘を恐れ、事実を無視した可能性も疑われる。

 

 入管庁は7月に死亡を巡る調査の最終報告書をまとめる見通しだが、支援者らは真相が解明されるかどうかは疑わしいと強調する。

 

上川陽子法務大臣のハグで遺族を迎える真意は?

 法務省の今回の不祥事は、与党の、政権延命を狙う2020年の最高検察庁の検事総長の定年延長を画策したと言われる「検察庁法改正案」に次ぐ事案になるやもしれぬ火種を抱えている。

 

 

 新聞報道によると、5月18日、入管庁を管轄する上川陽子法務大臣は、遺族を迎え「希望を持って来日したにもかかわらず、胸がつぶれる思いだ」などと発言した、ようだ。遺族は映像や最終報告書の早期提供を要請し、謝罪を求めた。しかし収容中のビデオ映像の開示や謝罪の言葉はなかった。

 

 政府与党はビデオ映像を開示しない方針だが、野党は開示しないのはよほど不都合で、どれだけ出したくない中身なのか、実態を明らかにしなければならないと反発する。

 

 「中間報告」では、入管が定めた「仮放免を許可することが適当とは認められない8項目」*1のいずれかに該当したという記載がない。収容自体が極めて恣意的に行われていたことを認識したのではないか。しかし、中間報告が最終報告にまとめられる段階で、真相を明らかにする報告書には、入管当局の人権無視、人命無視に抵触するようなことは極力避ける余地を残すための政治的遠謀が隠されている。

 

 入管の統計調査が始まった2007年以降、入管施設での外国人死亡者数はウイシュマさんで17人に上る。身内の死の真相を知りたくても、来日を果たせず、泣き寝入りを強いられる遺族は数知れない。

 

入管は自分たちが間違っているとは思わない!?

 今回は廃案になったが次の国会では、今回と同じような法案を出してくるのではないかと警戒する。日本の入管行政に対して外国人や支援者から「人を人として扱わない」という批判が繰り返されている。収容者の死亡事故、ハンガーストライキも相次いでいる。遺族らの真相究明と再発防止の訴えに耳を傾けるべきだろう。

 

 難民を保護することに関する国民的な議論はすでに済んでいると思う。適正な難民認定が行われるような制度の改善こそが必要。現状は、「国際条約違反」と言われても反論もできない状態だと思わざるを得ない。公権力によって拘束するのであるから医療提供は国が責任を持つべきであることは論をまたない。

 

*1 ①殺人,強盗,人身取引加害,わいせつ,薬物事犯等,社会に不安を与えるような反社会的で重大な罪により罰せられた者 ②犯罪の常習性が認められる者や再犯のおそれが払拭できない者 ③社会生活適応困難者 ④出入国管理行政の根幹を揺るがす偽装滞在・不法入国等の関与者で悪質と認められる者 ⑤仮放免中の条件違反により,同許可を取り消し再収容された者 ⑥難民認定制度の悪質な濫用事案として在留が認められなかった者 ⑦退去強制令書の発付を受けているにもかかわらず,明らかに難民とは認められない理由で難民認定申請を繰り返す者 ⑧仮放免の条件違反のおそれ又は仮放免事由の消滅により,仮放免許可期間が延長不許可となり再収容された者

 

 

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